研究課題/領域番号 |
17J02494
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
島元 紗希 鹿児島大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | β2-アドレナリン受容体 / 骨格筋タンパク質分解 |
研究実績の概要 |
長期的な飼料穀物の需給のひっ迫が懸念される状況下で、ブロイラーや地鶏などの肉用鶏の生産には、産肉性や飼料効率の向上が求められている。一方、生産現場では、肉用鶏の成長(体重や骨格筋の増加量)に大きな個体差が生じている。肉用鶏の体重や骨格筋量の個体差を最小化し、斉一性を高めることで産肉性と飼料効率の改善が可能となるが、個体差が生じる原因は不明である。 アドレナリンは、副腎から分泌されるホルモンであり、骨格筋では主にβ2アドレナリン受容体(β2-AR)によって作用が伝達され、骨格筋間に現れるアドレナリンの作用の差異はβ2-ARの発現量に依存する。これらの情報から、同じ骨格筋(例えば浅胸筋)においても個体ごとにβ2-ARの発現量が異なれば、アドレナリンに対するβ2-ARシグナルの作用強度が異なる可能性が考えられる。本研究は、肉用鶏の体重・骨格筋量の個体差に対するβ2アドレナリン受容体の関連を明らかにし、鶏肉生産技術へ応用するための基盤情報を得ることを目的とする。 本年度では、ニワトリβ2-ARの遺伝子配列からβ2-ARの特異的抗体を作製し、増体が遅い群と速い群のβ2-ARタンパク質の発現解析を調べた。加えて、環境要因によるβ2-AR発現量の個体差の原因を解明するため、本年度は、環境要因として飼料摂取量に注目し、群飼育条件下における成長が早い群と遅い群の飼料摂取量を比較し、続いて、飼料摂取量と骨格筋のβ2-AR発現量との関連性を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、昨年度の実施予定であったニワトリβ2-ARの特異的抗体作製が完了したため、骨格筋中のβ2-ARのタンパク質の発現分析を行った。1日齢から5日齢までの増体量で増体が速い群(急速発育区)と遅い群(遅発育区)の2群間のβ2-ARタンパク質の発現を比較した。その結果、増体が異なる2群間における浅胸筋中のβ2-ARタンパク質発現には、有意な差は認めらなかった。しかしながら、抽出したタンパク質溶液中のβ2-ARタンパク質量が微量だったため、来年度は、浅胸筋から細胞膜画分のタンパク質を分離・抽出し、両区間のβ2-ARタンパク質の発現を比較する必要がある。 また、環境要因として飼料摂取量に注目し、群飼育条件下における成長が早い急速発育区と遅い遅発育区の飼料摂取量を比較し、続いて、飼料摂取量と骨格筋のβ2-AR発現量との関連性を調べた。その結果、群飼育条件下において、急速発育区のヒナは、遅発育区と比較して飼料をより多く摂取することが示唆された。しかしながら、飼料摂取量とβ2-AR mRNA発現の相関は認められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の積み残しである、ブロイラーのβ2-ADR遺伝子における一塩基多型に着目し、β2-ADR mRNA発現量の差の原因となるDNA変異を検出する。さらに、増体が遅い群と速い群のβ2-AR遺伝子とそのプロモーター領域のシーケンス解析を行い、β2-AR mRNAの発現量の個体差と関連するプロモーター領域のDNA変異を検出する。本研究で得られた成果を応用し、ブロイラーと地鶏を用いて、β2-ADRシグナルの活性化による増体の遅い群の成長改善を図る。以上の研究より、骨格筋のβ2-ADRシグナルの制御による鶏肉生産の改善のための基礎情報を得る。 続いて、さつま地鶏とロードアイランドレッドを供試動物に用いて、これらの鶏種がブロイラーと比較して小格である原因に骨格筋のβ2-AR遺伝子の発現量が関連するか否かを調べる。先ず、さつま地鶏やロードアイランドレッドの塩基配列を決定し、β2-AR mRNAの発現量の個体差と関連するプロモーター領域のDNA変異を検出する。 また、現在までに見出している、β2-ARの活性化により成長改善作用を示した飼料資材(カプサイシンやシネフェリン)を用いて、地鶏の増体量、骨格筋重量、骨格筋のグルコース取込量およびタンパク質分解量の改善を調べる。
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