研究課題/領域番号 |
17J02556
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
麦山 亮太 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 転職 / 就業中断 / 社会階層 / 労働市場 / 雇用の安定性 / キャリア形成 / 男女比較 / SSM調査 |
研究実績の概要 |
本年度は,主として2015年社会階層と社会移動全国調査(以下,SSM調査)データを使用して,学会報告および論文の発表を進めた.2005年の同調査データを併せて使用することによって,戦後日本において職業経歴のなかで離職・転職を経験することがその後のキャリアにいかなる影響をおよぼすかを,男女による違い,さらには時代による違いに着目して検討した. 現時点で得られた結果を総合してみれば,企業内部の労働市場とそこでの長期雇用を前提とする日本の労働市場において,転職経験,さらに無業経験はその後のキャリア対して強い不利をもたらし,格差を生成しているといえる. その代表的な成果の1つは以下である.就業を中断することは,その後20年近くにわたって正規雇用に就く確率を持続的に低い状態に留める.この結果は男女ともに見られ,これまで女性に特有のイベントとして捉えられてきた就業中断が,実は男性においてもキャリア形成に大きな困難を残す契機となっていることを確認した. さらにこれまで,転職経験の効果が時代によっていかに変化しているのかについて検討を行っており,その成果は学会にて随時発表している.具体的には,転職経験がその後のキャリアに与える影響について検討した.暫定的な結果を以下の3点にまとめる.(1)雇用の安定性に関していえば,転職を経験することでその後離職あるいは失職を重ねやすくなることが確認され,その関係は高度経済成長期以降総じて安定的であった.(2)職業獲得に関しては,産業構造の変化を反映し,近年になるにつれてサービス職業への転職入職の機会は大きく増大し,転職の結果を従来とは異なるものへと変化させている.(3)高齢期の経済水準にも離職・転職は少なからぬ影響を残す.とくに男性においては,現役期に就業を中断した経験をもつ高齢者は所得および資産が低い水準に抑えられていることが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は日本の社会学において代表的な学会である日本社会学会・数理社会学会・家族社会学会の学会誌に論文を掲載することができ,またそれぞれ同学会において研究成果の報告を行うことができた.また当初の研究予定に加えて,転職とキャリア形成の間の関係の時代的な変化についても検討することができ,研究の視座をより日本の労働市場の実態に即したものへと展開することができた. ただし一方で,転職および就業中断経験と労働より得る報酬(賃金)との関係についての分析はまだ途上である.また,中長期的なキャリア形成への影響が,時代的に以下に変化したのかという点に関してはさらに踏み込んだ分析が必要である.以上,当初の計画以上に進展した部分と,当初の計画より若干遅れている部分が両方あるという点を鑑みて,おおむね順調に進展しているとの判断に至った.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究を通して,職業経歴,なかでも転職・就業中断経験を通じた格差の生成過程を社会階層論的な視点から検討してきた.今後取り組むべき課題は以下の2点である.(1)転職・就業中断経験がその後のキャリア形成に与える中長期的な影響を正規雇用/非正規雇用の観点のみならず職業獲得という観点から検討するとともに,その影響の時代的な変化を明らかにする.(2)転職・就業中断によって生じる労働市場における地位の変化が,報酬(賃金)の格差に対してどのように反映しているのかを,賃金の変化に関する情報を聴取したパネル調査データをもとに明らかにする.以上2点について今後より積極的に検討していく予定である.もちろんこれらの分析結果については国内・国外の学会にてその成果を報告していく.さらに,すでに学会報告を経た内容については論文化・投稿を進め,さらなる成果の公表と発信を行っていく予定である.
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