研究実績の概要 |
本研究の一年目である平成29年度は、(1)現象学は本質のアプリオリな探究であるというフッサールの主張に対する諸批判の検討、および(2)フッサールの哲学の方法論と彼の「超越論的観念論」という哲学的立場の関係の解明、という二つの課題に取り組んだ。 (1)に関しては、次の三つの批判に対してフッサールの側から適切に応答できることが明らかになった。第一に、フッサールの「アプリオリ」という語の用法はカント以来の標準的な用法から逸脱しているのではないかという批判に対しては、逸脱は単に用語法上のものにすぎず、フッサールもカントと同様に認識において経験が果たす二つの役割を適切に区別していると応答できることを明らかにした。第二に、すべての必然的真理がアプリオリに知られうるわけではないという批判に対しては、すべての必然的真理がアプリオリに知られうるのではないという点を認めつつ同時にフッサールの論点も守ることができることを明らかにした。第三に、フッサールの自由変更という方法は経験的な要素を含んでいるように見えるので、アプリオリな方法とは言えないのではないかという批判に対しては、認識において経験が果たす二つの役割を適切に区別するならば、自由変更という方法はアプリオリな方法だと言うことに問題はないことを明らかにした(論文「フッサールにおける本質認識とそのアプリオリ性」、『哲学』第68号)。 (2)に関しては、(a)フッサールの哲学の方法論を論拠にして、(b)フッサール哲学の形而上学的中立性を主張する先行研究を批判的に検討した。その結果、(a)を認めたとしても(b)は帰結しないこと、および(b)はフッサールのテクストと整合しないことを明らかにした(学会発表"Husserl on the Correlation between Actuality and 'Ausweisung',")。
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