研究課題/領域番号 |
17J02578
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
市橋 克哉 広島大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | リチウムイオン伝導度 / インピーダンス / 固相コバルトイオン交換 / 電気伝導性 / トランジスタ |
研究実績の概要 |
今年度は、化合物のリチウムイオン伝導度の温度依存性評価、電子供与性コバルトイオンへの固相イオン交換、イオンの繰り返し交換に取り組んだ。まず、リチウムイオン伝導性に関して、脱水後の試料を測定したところ、低周波数側に線形的な挙動が観測された。これはイオン伝導に由来して現れるものであり、測定結果からイオン伝導度は348 Kで4.1E-6 Ωcm、活性化エネルギーは460 meVと見積もられた。また、固体Li-NMRでも半値全幅の温度依存性が観測されたことから、この化合物は熱活性型のリチウムイオン伝導体であることが示唆された。さらに、軸依存性も観測されており、イオン伝導の異方性も確認された。 次に、電子供与性イオンとしてコバルトイオンの導入を試みた。結晶中のリチウムイオンを水溶液中のコバルトイオンと交換すると、電荷移動に由来するCTバンドがUV領域からIR領域にシフトすることが示唆された。実際、コバルトイオン交換体の直流比抵抗を測定したところ、室温での比抵抗が7桁低下していた。また、磁化率測定の結果から、ワイス温度は9.4 Kと見積もられた。交流磁化率測定の結果と合わせると、コバルトイオン交換体が強磁性体であることが示唆された。さらに、コバルトイオン交換体の粉末X線回折測定から、イオン交換による結晶構造の変化は起こっていないことが示唆された。 この結果を基に、コバルトイオンに交換した試料に銅イオンを導入し、結晶の導電性と絶縁性をスイッチングすることを試みた。実験では、電子供与性コバルトイオンを導入した結晶に、電子受容性銅イオンを再度導入した。この結晶について直流比抵抗の温度依存性を測定したところ、室温での比抵抗がコバルトイオン交換体に対して1桁増加していた。この結果は、電気伝導性のスイッチングに成功したことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
私が上記のように考えた理由は、当初の研究計画以上に研究が進展を見せたからである。当初の研究計画では、結晶中への電子受容性/供与性イオンの導入によるホール/電子ドーピングの達成と、イオン交換条件の精密検討を挙げていた。それに対して、実際には、化合物群のリチウムイオン伝導度の温度依存性をインピーダンス測定、固体Li-NMR測定を用いて詳細に評価した。これにより、従来まで明らかになっていなかった電子・イオン混合伝導メカニズムを解明する足掛かりを得た。また、電子供与性コバルトイオンへの固相イオン交換を達成しており、「イオンスイッチトランジスタ」開発の前段階である電子供与性イオンの導入に成功した。実際、コバルトイオンの後に銅イオンを導入することで、電気伝導性をスイッチングすることに成功した。ここで、コバルトイオンを導入した系について、IRスペクトル測定、ICP発光分光分析、電子線プローブマイクロアナライザ測定、電気伝導度測定、磁化率測定などを用いて、物性を評価した。これらの結果から、当初の研究計画以上に発展を見せたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、平成29年度までに発見したホール/電子ドーピング可能なイオン種以外のものについて探索する。この時、マンガンイオンや鉄イオンなどが新たな候補となり得る遷移金属イオンである。また、拡張したイオン種の組み合わせを検討することで、イオンスイッチトランジスタ開発に繋げる。具体的には、イオン交換によりホール/電子ドーピングを繰り返し行う。この時、注入されたキャリア量を評価するためにICP発光分光分析で組成を精密に決定する。また、イオンの繰り返し導入による構造劣化を評価するために、高輝度X線を用いて精密構造解析を試みる。さらに、導入したイオン種と電気伝導度の相関を利用して、「イオンセンサー」の開発も目指す。この時、交換実験において水溶液のpHや温度を正確にモニタリングすることで、センサーとして駆動する条件を厳密に決定する。
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