今年度は、化合物のリチウムイオン伝導度制御、固相イオン交換機構の解明、化合物内の溶媒分子の脱吸着に伴う磁気スイッチングに取り組んだ。まず、リチウムイオン伝導制御に関して、イオン伝導経路の歪み率や伝導経路の径の拡張に重点を置いて取り組んだ。その結果、伝導経路の径と歪みが小さな試料で、よりリチウムイオン伝導度が増加することが明らかとなった。このことから、イオン伝導経路の拡張よりも、歪みの抑制がイオン伝導度の向上に効果的であると結論付けられた。 続いて、結晶中でリチウムイオン伝導が観測されている試料を塩化カリウム水溶液に浸すことで、結晶中のリチウムイオンをカリウムイオンと交換し、このときのイオン交換機構を解明することに取り組んだ。実験後の結晶について、電子線プローブマイクロアナライザ分析や誘導結合プラズマ発光分光分析、IRスペクトル測定などを行い、イオン交換に関する考察を行った。その結果、結晶を水溶液に浸す条件によっては、水溶液中のカリウムイオンと交換された領域と、されなかった領域が共存することが明らかとなった。このことから、イオン交換平衡やイオン拡散速度に従う従来のイオン交換剤とは、異なる気候で結晶状態でのイオン交換が起こっていることが明らかとなった。 さらに、結晶中の有機溶媒分子を加熱により脱離させ、結晶の磁気特性の変化を追跡した。元素分析やIRスペクトル測定、熱重量分析、粉末X線回折測定などから、結晶中の有機溶媒分子の脱離の前後で結晶性が失われないこと、溶媒脱離後の試料を溶媒の蒸気にさらすことで再度溶媒分子が戻ってくることが明らかとなった。このような試料について磁気特性を調査したところ、溶媒の脱離に伴って強磁性的な相互作用が強まり、溶媒分子が戻ってくることで元の磁気挙動に戻ることが確認された。以上のことから、溶媒分子の脱吸着に伴った磁気スイッチングが達成されたと考えられる。
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