研究課題/領域番号 |
17J02608
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
永井 正義 東北大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 染色体分配 / 知的障害 / 分裂期 / 神経発生 / 神経分化 / CAMP / Champ1 |
研究実績の概要 |
新規分子として同定されたCAMP(Champ1)はがん細胞株を用いた実験において、染色体分配に必須であることが報告されているが、CAMPホモノックアウトマウスを作製したところ、初期発生に明らかな異常はみられなかった。一方で、生後2日以内に死亡することがこれまでの研究によって明らかになっている。また、CAMPは脳を含むいくつかの組織で高発現しており、重度知的障害患者においてCAMP遺伝子の変異が見られることが申請者らのグループにより明らかにされている。 そこで、本年度は、脳におけるCAMPの発現時期及び発現部位の解析を行なった。胎児期からCAMPホモノックアウトマウスが死亡する生後2日目までの脳におけるCAMPの発現量をウェスタンブロッティングによって調べたところ、胎児期を通じて発現していることがわかった。次に、蛍光免疫組織染色及びウェスタンブロッティングを用いて、CAMPの脳における発現部位を調べた。これまで使用されてきたヒトに対するCAMP抗体での解析では、シグナルが微弱なため、免疫組織染色で発現を確認することはできなかったが、今回マウス特異的な配列を用いた抗体を作製し、ウェスタンブロッティングの結果と合わせて解析したところ、CAMPがマウス脳全体で発現していることが分かった。次に、脳におけるCAMP発現細胞種を胎児脳より単離した初代培養細胞を用いて蛍光免疫染色したところ、CAMPは神経幹細胞及び、神経細胞で発現していた。同様に、マウス脳の薄切切片を用いた組織免疫染色で、神経幹細胞及び、神経細胞でのCAMPの発現を確認したところ、培養細胞と同様に神経幹細胞及び、神経細胞で発現していた。以上の結果より、CAMPは神経幹細胞から神経細胞に分化するまで広く働いている可能性が考えられた。本研究の成果は、生体内におけるCAMPの機能だけに留まらず、染色体分配の異常による神経発生・分化の障害から疾患の発症に至る機序の解明につながることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス試料において高感度にCAMPを検出できるマウスCAMP特異的抗体を作製することに成功した。本抗体を使用することにより、マウス脳におけるCAMPの発現時期及び部位することができ、今後の研究の更なる推進が期待できる。また、CAMPノックアウトマウスの行動学的解析を行うために、行動実験に用いるマウスの戻し交配を終え、解析に必要な必要匹数を確保することができた。これらの成果から判断して、本研究課題はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
CAMPは脳全体に発現していたことから、CAMPヘテロノックアウトマウスの行動解析を行う。得られた結果をもとに、行動に影響を及ぼしうるCAMPヘテロノックアウトマウスの脳領域について、神経発生・分化の状態を、組織免疫染色やウェスタンブロッティングによって解析する。同時に、領域内の分裂期細胞について、CAMPの既知の機能である染色体分配の様子を観察する。また、CAMPノックアウトマウスより単離した初代培養神経幹細胞を用いて分化実験を行い、CAMPの神経細胞分化における寄与を検証する。以上の実験により、行動異常の原因となる細胞の機能異常を神経生物学的・細胞生物学的アプローチから解析する。 加えて、脳におけるCAMPの分子基盤を明らかにするため、マウスの脳全体を試料としてマウスCAMP特異的抗体を用いた免疫沈降実験を行い、質量分析器によってCAMPと結合するタンパク質を同定する。結合タンパク質が得られた場合は、脳の各部位や各神経細胞種において、その結合状態と細胞内局在を解析する。また、既知のCAMP結合タンパク質についても同様に解析し、神経発生・分化に応じて変動がみられるかどうかを確認する。本実験により、CAMPとともに神経疾患に関わるであろう候補因子を明らかにし、CAMPの異常を発端とする神経疾患発症の分子基盤の解明を進める。
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