研究課題/領域番号 |
17J02645
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
遠藤 充 北海道大学, 水産科学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ヘテロプラスミー / 異数性精子 / 異数体 / スポッテッドダニオ / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
今年度は、①生存性の核細胞質雑種を誘起するための二倍性精子誘導に向けた研究と、②異種間ヘテロプラスミック個体誘起に向けた研究、③ゼブラフィッシュ同種間のヘテロプラスミー検出に向けた研究を行った。①については、核細胞質雑種の成魚を誘起できた場合、核細胞質雑種の配偶子形成過程を、生殖系列キメラを用いずに調査できる。そこで二倍性精子の誘導を目的に、ダニオ属雑種で妊性があると報告されているゼブラフィッシュ雌×スポッテットダニオ雄雑種の生殖能力について調査した。雑種雄が産出した精子は、半数体を中心に様々な倍数性を含む異数性精子であった。この雑種雄由来の異数性精子と、ゼブラフィッシュ雌との戻し交配では、受精率が大幅に低下し、ほとんどの胚が奇形であった。この戻し交配子孫は、半数体から三倍体までの様々な異数性を示した。そこで、二倍性精子を含む雑種精子を用いて異種間雄性発生を行い、生存性の核細胞質雑種の誘導を試みたが、生存個体は得られなかった。 ②では、移植に用いるミトコンドリアとして、A. 未受精卵の遠心分離により得た細胞質画分、B. ミトコンドリア単離キットにより未受精卵から精製したミトコンドリア、の2種類を候補とし、調整方法を検討した。方法Bを用いた際に、移植胚の生残率が最も高かった。ドナーにキンギョ由来とドジョウ由来の精製ミトコンドリアを用いて異種間ミトコンドリア移植を行ったところ、いずれも正常な外部形態の孵化仔魚が得られた。移植胚は各胚発生段階からドナー由来mtDNAとゼブラフィッシュのmtDNAの両方が検出され、ヘテロプラスミック胚の誘起に成功したことを確認した。 ③については、本研究室で飼育している2系統のゼブラフィッシュをmtDNAに対する系統特異的プライマーにより判別するため、ミトコンドリアDNA調節領域と、COXIおよびCytb遺伝子領域について塩基配列解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・本年度はミトコンドリア移植によるヘテロプラスミック個体の作出方法の改善により、正常な外部形態のヘテロプラスミック胚を誘起できた。未受精卵を材料にミトコンドリアの単離・精製と蛍光標識、そしてゼブラフィッシュ受精卵への移植までの手順を確立できたため、今後も安定して解析材料となるヘテロプラスミック個体を誘起できると考えられる。また、ヘテロプラスミー検出のためのmtDNAに対する種判別プライマーに加え、ゼブラフィッシュ2系統を判別するための系統判別プライマーに作製に向けたmtDNA塩基配列解析も完了した。来年度このプライマーを完成させることができれば、異種間のミトコンドリア移植に加えて、同種間のミトコンドリア移植実験においてもドナー由来mtDNAを検出可能になる。 ・核細胞質雑種については、ダニオ属雑種の精子に着目して研究を行うなかで、雑種の生殖能力に関する新たな知見が得られた。雑種由来精子は様々な倍数性の異数性精子であり、雑種精子を用いた戻し交配により様々な異数性を示す子孫が得られた。その中で正常な外部形態を示したのは異数体(2.5N)であり、異数体生存の可能性が示された。過去の研究で異数体が生存するという報告があるが、それらは三倍体由来の異数性精子による異数体であり、雑種精子由来の異数体の報告は前例が少ない興味深い結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
・ダニオ属雑種由来の精子を用いた雄性発生においても生存性の核細胞質雑種は得られず、核細胞質雑種由来の配偶子形成過程を観察には、やはり生殖系列キメラの作出が必要と考えられる。ここまで生殖系列キメラを多く作出できていないため、来年度は周囲の協力を得ながら多数のキメラを作出できるよう進めていく。 ・ミトコンドリア移植により作出したヘテロプラスミック個体の配偶子や生殖能力を調査する。ドナー由来のmtDNAが配偶子へ伝達しているかどうか、そして各組織にどのように分布しているかを、昨年度に設計が完了しているミトコンドリア遺伝子に対する種判別プライマーを用いて解析する。またヘテロプラスミック個体中のドナー由来ミトコンドリアの定量を試みる。
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