研究課題
世界の第一位の死因である虚血性心疾患(CAD)は動脈硬化に起因する。動脈硬化性疾患を予知し、血管壁細胞(内皮細胞、マクロファージ、平滑筋細胞)を直接標的にした新たな治療法を開発すべく、本研究では、新規血管作動性物質 (Adropin、Vaspin、Chemerin、Neopterin、Kisspeptin-10 [KP-10]、Salusin-βの7分画) に着目し、基礎と臨床を橋渡しするトランスレーショナルリサーチを行ってきた。① 試験管内:THP-1細胞由来マクロファージにおいて、Adropin、Vaspin、Chemerinは、炎症性フェノタイプを炎症抑制性のM2にシフトした。ヒト大動脈平滑筋細胞において、AdropinはFibronectinおよびElastin発現、VaspinはCollagen発現を促進させ、Chemerinでは変化が無かった。② 生体内:動脈硬化モデルであるApoE欠損マウスへのAdropin、Vaspin投与では大動脈硬化病変形成の進展を抑制し、Chemerinまたは活性中心を含むアミノ酸分画であるChemerin-9の投与では、Chemerin-9の方がより強力に病変形成を抑制することを明らかにしている。また、AdropinおよびVaspin投与群では大動脈弁輪部のプラーク、単球/マクロファージの浸潤および血管平滑筋細胞の含有量を有意に抑制し、Vaspin投与群では、血管壁の炎症と、プラーク内の不安定化も有意に抑制した。③ 臨床:安定型CADや不安定型CAD患者の冠動脈では、非CAD患者に比べ、冠動脈プラークにおいてNeopterinおよびKP-10は共に高発現していた。CAD患者では、非CAD患者または健常者に比べ、血中Neopterin濃度は有意に増加し、KP-10濃度は予想に反して減少していた。Neopterinが善玉でありながら病変および血中で増加していたのは病変進展に抗うために増加しているものと推察された。また、KP-10は、抗凝固作用が報告されているため、急性冠症候群発症における血栓形成時に血中で消費されてしまった可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
① 試験管内:動脈硬化の3大主要現象に対する作用、またそれらに関連するマクロファージのフェノタイプ、細胞外マトリックス発現、シグナル等についての検討は既に終了している。現在、Chemerin-9およびSalusin-βの7分画の作用について検討している。② 生体内:AdropinおよびVaspinの動脈硬化モデル動物であるApoE欠損マウスへの持続投与実験は既に終了している。ChemerinおよびChemerin-9については検討中である。③ 臨床:NeopterinおよびKP-10では、CAD患者の冠動脈病変における発現、また、CADの重症度と血中濃度との相関を比較検討中である。よって、おおむね順調に進展している。
① 試験管内:Adropin、Vaspin、Chemerinのヒト単球や血管内皮細胞からの炎症性サイトカイン分泌への作用をELISAで検討し、Chemerin-9およびSalusin-βの7分画の各血管壁細胞への作用について引き続き検討する。② 生体内:ChemerinおよびChemerin-9のApoE欠損マウスへの持続投実験を継続して行う。また、ELISAを用いてAdropin、Vaspin、Chemerinの血中濃度を測定する。③ 臨床:NeopterinおよびKP-10は、ヒト血中濃度と動脈硬化病変の進展度との相関を引き続き検討する。また、各々のReceiver Operating Characteristics (ROC) Curveを描き、Area Under the Curve (AUC)を求め、比較検討する。更に、診断効率が最も向上するバイオマーカーの最適な組み合わせを見出す。今後、CAD患者全例において発症後3年間にわたり追跡調査を行い、心血管イベントや予後との関連も検討する。また、Adropin、Vaspin、Chemerin受容体、Vaspinに関してはCAD患者及び非CAD患者の冠動脈病変における発現を検討する。
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