研究実績の概要 |
オキサリプラチン(L-OHP)の特徴的な副作用である末梢神経障害は、患者のQOL低下、有効な治療の変更・中止につながるため臨床上大きな問題となっている。感覚神経の伝達を担う脊髄後根神経節(DRG)にL-OHPが蓄積することで神経毒性を示すこと、細胞内輸送にトランスポーターが関与することが報告されているが、L-OHP蓄積や毒性発現への寄与は明らかになっていない。本研究では、L-OHPによる神経毒性とトランスポーターの関連を明らかにすることを目的に実験を行った。 プラチナ輸送との関連が報告されている薬物トランスポーターの内、ラットDRG細胞においてmRNAの発現が確認された12種を解析対象とした。各トランスポーターをヒト胎児腎由来細胞(HEK293細胞)に一過性に過剰発現させ、L-OHP曝露による細胞内Pt蓄積量を誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を用いて測定した。その中で蓄積量に変化が見られたトランスポーターについて安定発現株を作成し、L-OHP曝露後の細胞生存率をWST-8法で測定した。また、安定発現株における細胞内Pt蓄積量の時間推移、および濃度依存性をICP-MSを用いて明らかにした。ラットを用いた検討ではDRGにおける各トランスポーターをノックダウンした後、オキサリプラチンを静脈内投与し、末梢神経障害の発現を評価した。 解析の結果、Mate1, Octn1, Octn2などの薬物トランスポーター過剰発現細胞において有意なPt蓄積量の増加、L-OHP曝露による細胞生存率の低下を認めた。DRGにおけるMate1のノックダウンによって末梢神経障害の重症度に差がみられた。また、DRG内Pt蓄積量を測定したところsiRNA投与群において組織内Pt量の増加が確認された。以上より、オキサリプラチン誘発末梢神経障害におけるMate1の寄与が明らかとなった。
|