研究課題/領域番号 |
17J02923
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
浅井 開 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | diamond / biosensing / FSCV / aptamer sensor / surface modification / in vivo sensing / microelectrode |
研究実績の概要 |
脳内神経伝達物質など濃度変化のタイムスケールが ms 程度以下と速い物質の長時間モニタリングを達成すべく,針状ダイヤモンド微小電極を用いた Fast Scan Cyclic Voltammetry (FSCV) の評価を行った.対象物質には,脳内神経伝達物質であるドーパミンを用いた.当初の予想通り,純度の高いダイヤモンドを用いた場合は,ドーパミンの吸着が抑制され FSCV の感度は極めて悪かった.一方,不純物炭素成分の多いダイヤモンドを用いると,他のカーボン電極 (カーボンファイバー) に近い感度が得られた.しかし,(1) 微小電極中に安定して不純物炭素を多く入れることが困難であること,そして (2) 非常に多く不純物炭素が導入されたダイヤモンドであってもカーボンファイバー電極には感度が劣る,という2つの理由から,ダイヤモンド電極による FSCV には限界があると考え,研究の方向転換をするに至った.しかしながら,この結果は生体物質を吸着しにくい表面をもつというダイヤモンドの特徴を裏付けるものであり,その意味で有益な結果が得られたと考えている. 一方,生体内測定に必要となる針状ダイヤモンド微小電極に関して,新たな作製手法を考案した.導電性の針状ダイヤモンドの先端をマスク材料で保護した状態で,その上から絶縁性のダイヤモンドを成長させることで,ダイヤモンドのみで構成された針状微小電極の作製が実現できた.研究室レベルではダイヤモンド合成装置の都合により絶縁性ダイヤモンドの絶縁性が悪く,実用的に用いられる微小電極の作成には至っていない.しかしながら,本手法の全てが自動化可能であるため,針状ダイヤモンド微小電極の商業化などには理想的な手法と言える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の通り,研究課題の柱としていた FSCV に対するダイヤモンド電極の限界が見られたため,進捗状況としてはやや遅れいている.多くの時間を費やしたのが,針状ダイヤモンド微小電極作製時における不純物炭素導入量の制御である.微小な電極だけあって,ダイヤモンド合成装置内での電極位置の違いで大きくダイヤモンドの質が変化することが問題であった.そこで,(1) 基材のタングステン針を直線的に作製する,および (2) ダイヤモンド合成装置内でタングステン針を固定化する,の2点に取り組んだ. (1) に関しては,タングステン針をギターの弦の様に伸ばす治具を作製することで,安定して直線的なタングステン針を得ることが可能となった.なお,弦を鳴らした時の音 (周波数) を一定にすることで,同一の力で伸ばすことができる.(2) に関しては,ダイヤモンド合成装置内のタングステン針固定用ホルダーの改良を試みた.しかしながら,ホルダーの形状を変化させたことにより合成時の条件が大きく変わり,逆にダイヤモンドの合成自体が困難となった. (1) の結果,ダイヤモンド合成の安定性に明確な向上が見られた.しかし,目的とする不純物炭素を導入する条件は過酷なため,以上までの操作をもってしても安定して不純物炭素導入量を制御することは困難だった.実験室レベルでの技術では,針状ダイヤモンド微小電極の作製についてこれ以上の努力を施すことは不適切と考え,続いて,その中で得られていた様々な不純物炭素濃度のダイヤモンド微小電極を用いた FSCV の評価に進んだ.不純物炭素成分がなし,中程度,高程度に含まれるサンプルをカーボンファイバーと比較した.不純物炭素の量と相関して FSCV における感度は増加したものの,どのダイヤモンド電極もカーボンファイバーのそれには大きく劣る結果となった.
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今後の研究の推進方策 |
上記の様に,本研究は FSCV ではない新たなテーマに取り組むこととした.それは,ダイヤモンド電極を用いた電気化学アプタマーセンサーの開発である.薬物濃度をセンシング対象とし,動物血液中でのリアルタイムかつ長期 (1日以上) モニタリングを目指す.アプタマーとは,ある物質のみを特異的に吸着するDNAであり,これを利用することで無数の物質が混在する系においても目的分子のみの測定が可能となる.さらに,検出手法に電気化学的な手法を用いることで,生体内における連続測定が実現可能となる.そこで,共有結合を介したアプタマーの強力な固定化が期待できるダイヤモンド電極を用いたアプタマーセンサーの開発により,血中での長期薬物モニタリングを目指す. 本来,化学的に安定な表面を持つダイヤモンドであるが,その表面への分子修飾としては主に4種類ほどの方法が報告されている.しかし,いずれの方法においても単分子層での制御された修飾のための決定的な証拠が欠けているのが現状である.そこで,目的分子をダイヤモンド上に単分子層で修飾する手法の確立が必要になる.単分子層か否かを確実に評価する手法を整えたのち,前述各々の方法を横断的に最適化・比較評価する. 続いて,アプタマーの修飾とそのセンサーとしての性能評価を行う.予備実験により,アプタマーは未修飾ダイヤモンド表面に非特異に吸着することがわかっている.アプタマーセンサーとしての性能を引き出すためにはアプタマーが電極表面に直立した形で固定化される必要があるため,種々のアプローチを試しその形を実現する.センサーの評価には,血中測定を模倣するためフロー測定装置を用いる.リン酸緩衝液など手軽に扱える系で検討をしたのち,ヒト血液など目的の系に近い系で測定を行う.最終的には,これまでに生体内測定向けに開発してきた針状微小電極を用いることで,生体内測定への実現に近づける.
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