研究課題/領域番号 |
17J02938
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
徳永 正之 東北大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 末梢動脈疾患 / 動脈形成 / X線CT / 金ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
本研究は、末梢動脈疾患を対象とし、その診断法や治療法への新たな概念の提唱を目指している。末梢動脈疾患とは、脳梗塞や心筋梗塞といった動脈硬化関連疾患の一つで、手足に血行不良が生じる動脈硬化症である。末梢動脈疾患に罹る患者は、他の動脈硬化関連疾患も併発しやすいため、末梢動脈疾患の診断・治療法を考えることは重要な課題と捉えている。末梢動脈閉塞後の虚血組織では、虚血状態を修復するため血管構造の再構築とそれに伴う血液再灌流が起こるが、この仕組みを正確に理解することが疾患の効果的な診断・治療に役立つと考えられている。血管の再構築過程には、もともと体に張り巡らされている側副動脈が拡張する動脈形成と、血管が新たに生えてくる血管新生がある。近年、これら2つのうち、動脈形成について、X線CTを用いたイメージングが行われてきており、動脈形成のメカニズム解明への期待が高まっている。そこで本研究では、この動脈形成に着目し、動脈形成が起こる過程を定量的に解析することで、得られた概念を末梢動脈疾患の診断法や治療法へ応用したいという目的の基に研究を行っている。 本研究では、末梢動脈疾患を模倣した下肢虚血モデルマウスを作製し、金ナノ粒子造影剤を用いたX線CTイメージングで血管構造変化を観察している。虚血後3日のマウス下肢組織では、コークスクリュー様に構造変化する血管構造変化が確認され、虚血後2週間にかけて、径が増大していく様子が観察された。コークスクリュー様に構造変化した血管の細胞状態を調べるために、コークスクリュー様血管を含む組織を取り出し、蛍光顕微鏡観察を行った。その結果、血管内皮細胞と血管壁細胞が異なる走行を示していることが明らかになってきた。この細胞種による血管拡張の際の応答の違いが、コークスクリュー様に構造変化を起こす要因の一つとなっているのではないかと示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は同一マウスの同一血管を経時的にX線CT解析することにより、動脈形成過程における血管形態が短期間でどのように変化するかを解析した。虚血処置後3、4、5日の三日間観察を行ったところ、動脈形成過程の際、血管形態パターンを維持しながら血管拡張するということがわかってきた。つまり、「血管の形態変化が先に起こり、後に血管が拡張してくる」といった傾向が見えてきた。さらに、観察対象の血管を病理切片にし、蛍光免疫染色で血管内皮細胞数の変化を観察した。その結果、血管拡張の際の血管内皮細胞増殖は、血流方向よりも血管周方向に増殖する極性があることを示唆した。このことを詳細に検討するため、血管内皮細胞の配向を数値シミュレーションで解析した。その結果、血管内皮細胞の配向は、血管拡張の早期と後期で異なる配向を示す可能性が見えてきた。 この結果は血管の形態変化メカニズムを解明する上で、非常に重要な概念提唱に繋がるものと考えている。 このように、課題解決を図りながら、おおむね順調に研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
コークスクリュー様に構造変化した血管と対照肢の同一箇所の血管(拡張・構造変化を起こしていない血管)の血管増殖因子に違いがあるかどうか、現在検討を行っている段階である。代表的な血管増殖因子として、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)がある。このVEGFの量が、構造変化を起こす初期段階と起こった後で違いがあるかどうか、また、どのような違いになっているか、非常に興味深い知見になると考えられる。VEGFの解析については、ウエスタンブロッティング法等を用いて研究推進を図る予定である。近年、PDGF(血小板由来成長因子)やFGF(線維芽細胞増殖因子)といった他の血管増殖因子の影響についても指摘されている。 VEGF以外の血管増殖因子の影響も明らかにしていきたい。 また、現在、血流速等の物理的数値を用いて血管内の力の変化を算出しようとしている。血管の構造変化には、血管内を流れる血流による流体力学的力を考慮する必要があるため、それらの値を用いて、どのような力が働けば、コークスクリュー様に変化するのかをシミュレーションで明らかにしようとしているところである。
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