本年度の研究実績としては、昨年度に行った在外研究での成果を日本語投稿論文の形で公表することを第一の目的とした。また、第二に博士論文を執筆する上で、分析に欠かせない史料の収集をブリティッシュ・ライブラリ(ロンドン)、トリニティ・カレッジ・ダブリン、アイルランド国立図書館(ダブリン)にて行った。現在、それらの整理・分類、分析を行っている。本科研費は特にこの在外調査に充てられた。 2年目までの成果として、17世紀アイルランドにおける植民地プロテスタント・エリートの重要性について考察を行ってきた。3年目にはイングランド人カトリック・エリートの植民地世界におけるプレゼンス、および彼らカトリックと王権との関係性に関する分析を行ってきた。カトリックへ着目することで、総督府の思惑通りには植民地社会の実態は進んでおらず、より複雑な状況を呈していたことが明らかになってきている。すなわち、イングランド人カトリックらは17世紀前半カトリック信仰の承認と引き換えに、スペインとの戦争資金提供をイングランド王権に申し出た。また40年代にはプロテスタント勢力と戦争を行うにもかかわらず、王権への忠誠を崩すことはなく、彼らのうちいくらかは50年代の亡命宮廷にも随伴していた。このように、王権とカトリックの関係を考えることで、植民地世界のカトリックおよびアイルランド人という他者像・言説の構築に関する理解は、より多面的なものとなることが期待できる。これらの成果を学位論文および投稿論文の形で今後公刊していく予定である。
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