研究実績の概要 |
本研究では,関節軟骨における主たる力学刺激である静水圧が軟骨細胞のクロマチンおよび遺伝子発現に与える影響を明らかにすることを目的として、東京大学大学院工学系研究科およびヘルシンキ大学ライフサイエンス研究所において研究を進めた. 東京大学における検討においては,軟骨細胞様細胞株として広く用いられるATDC5細胞が,静水圧(Hydrostatic pressure; HP)のもとでDNA損傷を生じることを明らかにした.さらに,静水圧のもとでヒストンのメチル化(H3K9me2,3)が抑制されることを見出した.これらの観察を説明づける一連の分子メカニズムを探るため,ヘルシンキ大学ライフサイエンス研究所Sara Wickstrom教授との共同研究をスタートし,2018年4月より2019年9月まで,ヘルシンキ大学にて実験検討を行ってきた.まず,マウスの大腿骨頭から軟骨細胞を単離し,細胞株化した.この細胞株は,ATDC5細胞に比して極めて高い軟骨細胞マーカーの発現を示した.樹立した細胞株に対して周期的な静水圧を負荷した.その結果,ヒストンのメチル化(H3K9me3)が抑制されること,クロマチンのアクセシビリティが増加すること,転写が活性化すること,さらに,DNA損傷を介してDNA複製が抑制されることなどが明らかとなった(論文投稿中). 軟骨細胞が示したこれらの応答は,静水圧の作用下における遺伝子発現の制御において重要な役割を果たしていると考えられる.今後の方向性として,クロマチンの構造変化を介した遺伝子発現の変化を探るため,ATAC シーケンシングが考えられる.現在は,東京大学との共同研究において,静水圧作用下のクロマチン構造変化および転写をモニタリングするための装置および可視化手法の開発を継続しており,静水圧のもとで生じる最上流の応答を解明することを目指している.
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