研究課題/領域番号 |
17J03057
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
齋藤 友大 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
キーワード | 銅ペースト / 透明導電膜 / シリコン太陽電池 / 拡散バリア性 / 界面接触抵抗 / 密着性 |
研究実績の概要 |
結晶Si太陽電池における更なる普及と低コスト化のために、CuペーストSi太陽電池の創製にはCuのSiへの拡散を防止するだけなく、高い密着性、良好な導通性を持つ多機能性透明導電膜の開発が必要である。本研究では、Al添加ZnO(AZO膜)に着目し、これまでの研究で、このAZO膜を用いたCuペーストセル特性は既存のAgセルを超える世界初の結果を得ている。一方で、実用化のためには、学術的観点から、Cu/AZO/Si間での界面反応の解明及び伝導機構を理解する必要がある。従ってAZOを用いたCuペーストSi太陽電池の開発原理を確立することを目的とした。 AZO膜の膜厚、Cuペースト配線の焼成温度、雰囲気、時間を変化させた太陽電池セル試料を作製し、各パラメータに対する特性変化とその起因する原因究明を行った。Cu/AZO、AZO/Si間における界面反応変化を組織観察し、各界面で形成された界面反応層の組成分析、化学結合状態を同定した。また、Cu/AZO/Si間の界面接触抵抗を算出することで、既存Agセルのそれと比較するとともに、エネルギーバンド構造を明確にした。 スパッタ蒸着によってSi基板に成膜されたAZO膜は、膜厚の増加に伴って、結晶性が向上し、キャリア濃度が変化した。このことがCu/AZO間のバンド構造、特に空乏層幅が変化し界面接触抵抗率に大きく寄与することが明らかになった。また、銅ペーストの焼成条件はCu粒子の焼結性及び有機溶媒の除去を目的とした酸化雰囲気下での焼成、酸化したCuの還元のための還元雰囲気下で焼成から成る。これらの焼成雰囲気と温度に対するセル特性への影響は、いずれも焼成温度、時間に比例してセル特性が劣化した。これらの原因は、酸化焼成ではAZO/Si間の絶縁性の界面反応層の形成が、還元焼成ではCu/AZO/Si間の密着性の低下が原因であることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
太陽光発電のマーケットシェア一位の結晶Si太陽電池において、更なる普及と低コスト化が望まれる。このため、集電電極をAgペーストから安価なCuペーストへの代替した研究開発がこれまで、20年以上も行われてきたが、未だ実用化に至っていない。そのボトルネックはCuのSiへの拡散を防ぐ拡散バリア層形成とその開発原理の両方が、解決できていないことにあった。また、CuペーストSi太陽電池の創製にはCuのSiへの拡散を防止するだけなく、高い密着性、良好な導通性を持つ多機能性透明導電膜の開発が必要であるため、本研究では、Al添加ZnO(AZO膜)に着目した。これまでの研究において、このAZO膜を用いたCuペーストセル特性は既存のAgセルを超える世界初の結果を得ている。一方で、実用化のためには、学術的観点から、Cu/AZO/Si間での界面反応の解明及び伝導機構を理解する必要がある。この研究背景に対し、環境負荷の少ない安価な亜鉛酸化物を拡散バリア層をとして機能することを見出した。さらに、CuペーストSi太陽電池に実用化に向けた開発原理の指針となる、Cu/界面層/Si間の界面反応機構、導電機構を解明しながら、CuペーストSi太陽電池の創製を学術的観点から研究を遂行した。その結果、既存AgペーストSi太陽電池とほぼ同等のCuペーストSi太陽電池を実現するとともに学術的裏付けと結びつけることに成功した。この事からも期待以上の研究の進展があったと評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
CuペーストSi太陽電池の実用化には、今後、更なる技術的進歩も要求される。具体的には、既存の反射防止膜SiNの成膜にはコスト負担が大きい製造工程を要するため、このSiN膜をより安価な製造装置を用いて成膜できるAZO膜に代替することを主に研究として推進する。これまでの研究成果によれば、AZO膜を用いたCuペースト電極セル特性は、ある膜厚以上を持つAZOの膜厚にほとんど依存しないことが分かった。故に、AZO膜の酸素濃度や成膜条件の調節により、光学バンド幅を変化させ、屈折率nを制御し、膜厚dを最適化することで光透過性だけでなく反射防止性をも有することが大いに期待できる。以上の観点から、AZO膜の電気特性と光学特性の新たな最適化を図る。方策として、様々なAl添加元素量、或いはその他の可能性ある元素を添加したAZO膜を用いる。酸素濃度や成膜条件の調節により、AZO膜の光学バンド幅を変化させ、屈折率を制御し、膜厚を最適化することで光透過性と反射防止性を調査する。 また、SiN膜は反射防止性だけでなく、パッシベーション効果と呼ばれるSiのダングリングボンドを終端することで、Si表面を不活性化し、高変換効率をもたらす。故にAZO膜への代替に向けて、Si表面の不活性化が必須である。このため、シアン化やアルキル化湿式処理法を用いて、Si表面準位の消滅を試み、AZO膜を用いたCuペーストSi太陽電池における表面再結合速度とキャリア寿命との関係を明らかにするとともに既存反射防止膜SiNのそれと比較を行う。。 また、簡便で安価な製造コストでAZOの成膜を可能にする湿式塗布法を使ったプロセスに注目し、これまでの学術的な開発原理に基づいて、太陽電池業界にイノベーションを起こすことを期待し、研究を行う。
|