研究課題
劇症1型糖尿病の約70%の症例に上気道炎などの感冒症状が先行することから、ウイルス感染が発症原因の1つであると示唆されているが、その詳細は不明である。急激な血糖上昇により、時には致死的であり、患者さんの社会生活に著しい支障をきたす疾患であるため、感受性遺伝子の特定、発症機序の解明は大きな社会貢献へと繋がると考えられる。ウイルス性劇症1型糖尿病モデルであるマウス脳心筋炎ウイルスD株(EMC-D)誘発糖尿病の感受性には、単一の遺伝子が関与していることが示唆されているが、EMC-Dウイルス感染により糖尿病を発症するDBA/2マウスの感受性遺伝子は未同定である。また、雄のみが糖尿病を発症し、雌は発症しない。そこで、DBA/2マウスにおけるEMC-Dウイルス誘発糖尿病の感受性遺伝子の同定、雌の抵抗性メカニズムの解明を目的とし研究を行った。本年度は、高力価のEMC-Dウイルスを感染させたDBA/2マウスの病態解析を行った。膵臓でのウイルス量は、感染後早期に、抵抗性系統C57BL/6J雄マウスよりもDBA/2雄マウスで有意に高値であったが、その後のウイルスの排除は両者同等であった。免疫染色の結果、EMC-Dウイルス感染3日目のDBA/2雄マウスの膵島組織では、CD45陽性細胞の浸潤以前にインスリン陽性細胞が減少していた。また、1型IFN濃度依存ウイルス抵抗性が、DBA/2雄マウスの膵β細胞ではC57BL/6J雄マウスの膵β細胞よりも有意に低い知見を得た。従って、EMC-Dウイルス感染早期における膵β細胞のウイルス抵抗性が、糖尿病の発症防御に重要であることが示唆された。これまでに、雌マウスが糖尿病を発症する系の報告は無いが、自然免疫に関わる遺伝子欠損DBA/2雌マウスは、EMC-Dウイルス感染により糖尿病が誘発されることを発見した。
3: やや遅れている
DBA/2マウスのEMC-Dウイルス誘発糖尿病感受性遺伝子探索においては、当初の計画通り進んでいる。しかし、EMC-Dウイルス誘発糖尿病における感受性の雌雄差の検討については、自然免疫に関与する遺伝子欠損DBA/2雌マウスがEMC-Dウイルス感染により糖尿病を発症することを発見し、再現性があることを確認したが、それ以上の検討は行えていないため、この評価とした。
本年度の研究結果により、膵β細胞のウイルス抵抗性がEMC-Dウイルス誘発糖尿病の発症防御に重要であることが示唆されたため、膵β細胞での抗ウイルス作用の詳細な解析を行う。膵β細胞を2つの色素で染色することにより、フローサイトメトリーで膵β細胞のみを高純度に単離することに成功した。この実験系を用いて、EMC-Dウイルス感染マウスから膵β細胞のみを高純度に単離し、網羅的な遺伝子発現解析を行う。得られた遺伝子発現データとSNP情報により、DBA/2マウスの感受性遺伝子候補を絞り込む予定である。また、雌マウスの膵β細胞においても詳細な解析を行う。
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EBioMedicine
巻: 23 ページ: 46-51
https://doi.org/10.1016/j.ebiom.2017.08.012