研究課題/領域番号 |
17J03074
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
堀合 毅彦 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | シンチレータ / 単結晶 / パイロシリケート / 温度特性 |
研究実績の概要 |
200℃程度の高温においても高い発光量を維持することができるシンチレータ単結晶の開発を目的に、ワイドバンドギャップを有する新規パイロシリケート型シンチレータ単結晶(RE2Si2O7, RE:希土類元素)の探索を行った。採用第二年度は、単結晶作製が可能かどうかを調査するために、(Lax Gd1-x)2Si2O7(0<x<1, 0.05刻み)の示差熱測定を行った。融点近傍での吸熱ピークを測定することで、一致溶融組成か不一致溶融組成かどうかを判断し、単結晶が作製できる組成について、マイクロ引下げ法を用いて単結晶の作製を行った。加えて、発光中心として添加するCe量の最適化を行うためにチョクラルスキー法を用いて単結晶作製を行った。作製した単結晶は、粉末X線回折測定を行い、結晶系の同定およびリートベルト解析によって結晶構造について詳細に評価した。 示差熱測定の結果から、(Lax Gd1-x)2Si2O7 (x=0.25, 0.30, 0.35, 0.40, 0.45)では、融点でシャープな吸熱ピークがみられた。上記の組成について、マイクロ引下げ法を用いて単結晶作製を行ったところ、全ての組成で透明な単結晶を得ることができた。続いて、チョクラルスキー法を用いた1インチ径の単結晶作製について、発光中心のCe添加量を0, 100ppm, 500ppm, 1000ppmと変化させた単結晶の作製ができた。また、粉末X線回折測定の結果からすべての組成で結晶系は単斜晶系(空間群:P21/c)であることがわかった。さらに、リートベルト解析によってLa量が増大すると、格子定数もわずかに増大する傾向があることが明らかになった。 以上の成果について、国内学会で積極的に口頭発表し、学術誌に3本の共著英語論文が受理済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
示差熱測定の結果から、単結晶作製が可能な範囲のLa量(25-45%)で発光中心としてCe3+を1.5mol%添加した(Ce0.015 Lax Gd0.985-x)2Si2O7単結晶を作製した。粉末X線回折測定の結果から、La量によって結晶系は変化せず、単斜晶系(空間群:P21/c)であった。結晶系の変化がないことから、希土類イオンの周囲に配位している酸素イオンの対称性は大きく変化しないと考えられる。フォトルミネッセンス測定の結果から、励起・発光スペクトルはLa量によって変化しなかった。このことから、Ce3+の5d準位の分裂幅はほとんど変化していないことが明らかになった。ガンマ線源として137Csを用いて25℃から175℃での発光量を評価した結果、25℃での発光量はLa量によらず高い値(約43,000光子/MeV)を有することが明らかとなった。175℃での発光量についてもLa量によらず室温での発光量の80%程度の高い発光量(約33,000光子/MeV)を維持できることが明らかとなった。 分子科学研究所極端紫外光研究施設(UVSOR)において測定した(Lax Gd1-x)2Si2O7 (x=0.25, 0.30, 0.35, 0.40, 0.45)のバンドギャップエネルギーは、La量に関わらず大きく一定(約7.1 eV)であった。 これらの結果から、(Ce0.015 Lax Gd0.985-x)2Si2O7単結晶はLa量によらず高い発光量を有することが明らかとなり、200℃程度の高温下での使用にも期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
温度消光の原因である励起された電子の熱イオン化を抑制するためには、伝導帯下端部とCe3+の5d1準位間のエネルギー差を大きくする必要がある。ここで、希土類パイロシリケート(RE2SI2O7, RE=希土類元素)において、母材の希土類元素のイオン半径によって結晶構造が変化することが報告されており、結晶構造が変わることによってCeイオンの周囲に配位している酸素イオンの対称性も変化し、Ce3+の5d準位の分裂幅が影響を受けることが期待される。これより、発光中心として添加しているCe3+の5d-4f遷移による発光を阻害しない希土類元素(La, Gd, Y, Lu)を母材としたRE2Si2O7を評価し、結晶構造とCe3+の5d準位の分裂幅の関係を調査する。さらに、Ce3+の5d1-4f間のエネルギー差で励起を行った際の量子収率の温度特性を測定し、結晶構造と高温耐性の関係についても考察を行う。 固相反応法によってCe添加RE2Si2O7(RE=La, Gd, Y, Lu)焼結体を作製し、粉末X線回折測定、リートベルト解析によって結晶構造を明らかにする。バンド内エネルギー準位を明らかにするために、バンド端励起ピーク測定によるバンドギャップエネルギーの見積り、Euイオンの電荷移動遷移の励起ピーク測定によるCe3+の4f準位の推定、吸収スペクトル測定によるCe3+5d準位の分裂幅の評価を行う。さらに、絶対量子収率測定装置を用いた量子収率の温度特性評価によって、結晶構造と高温耐性の関係を明らかにする。
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