研究課題/領域番号 |
17J03104
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
長坂 和明 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 脳卒中後疼痛 / サルモデル / 異痛症 / 痛覚過敏 / 可塑性 |
研究実績の概要 |
視床後外側腹側核が脳卒中によって損傷を受けると、患者はしばしば異常な痛み(脳卒中後疼痛)を呈すことが知られている。この病態メカニズムは不明で、根治的な治療法はない。本研究は脳卒中後疼痛に関与する脳活動および領域間のネットワーク変化を調べることを目的としている。29年度は主にモデル動物の確立と脳活動計測を実施した。まず当病態のサルモデルを確立するために、MRI画像と電気生理学的手法を用いて視床後外側腹側核を特定し、当該領域に血管壁融解酵素を微量投与することによって局所的な出血損傷を生じさせた。損傷を作成した個体を対象に、非侵害性の温熱刺激と機械刺激を手指に与える行動学実験を行ったところ、浮腫や血腫が比較的安定した時期から数週間後に、損傷と反対側の手指に両刺激に対する有意な回避行動上昇が確認された。これら行動変化は脳卒中後疼痛患者でしばしば見られる、通常は痛みを感じない刺激に対して痛みを感じる異痛症を反映した行動であると考えられた。サルモデルは従来の齧歯類モデルと比較して、患者の発症に至る時間経過によく似ていた。本研究成果はScientific Reportsに掲載された。 行動学的変化の背景となる脳活動を、麻酔薬によって鎮静させたサルモデルを対象にfunctional MRIを用いて評価した。結果、感覚刺激に対して、島皮質や帯状皮質といった領域では損傷前には確認されなかった脳活動の上昇が顕著に確認された。この2つの領域は解剖学的な連絡があることから、相互間に活動変化を引き起こす可塑性が生じている可能性が高い。平成30年度ではこれを明らかにするため、functional MRIで活動亢進が見られた領域を関心領域とする各脳領域との機能的な繋がりの強さを統計学的に探る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度では脳卒中後疼痛のモデル動物確立と脳活動計測による痛みに関連した脳活動を特定することを目的としていた。モデル動物確立に関しては、その行動学実験と組織学解析の結果を国際誌に投稿し、掲載された。モデル動物では、症状が出現するまでの時間が予想していたものより遅く(損傷から数週間)、一頭の行動結果を出すまでに時間がかかってしまった。しかしながら、ヒト患者では一般的に脳卒中から数週間後に痛み症状が出現していることから、サルモデルは患者に近いモデルであると考えることができ、これに関しては期待以上の成果を得た。これらのモデル動物複数頭に対して脳活動計測を既に実施、解析を始めており、国内学会で報告している。これらのことから、本年度の目的の大半は達成できているため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの脳活動計測から異常な活動変化を示す脳領域が明らかになった。平成30年度では、これら活動の変化が領域間でどのように関与しているのか相関解析を進める。また、脳卒中後疼痛患者に一時的な除痛作用を及ぼすとされる第一次運動野の経頭蓋磁気刺激法をサルモデルに実施し、行動実験と脳活動相関解析を実施する。まだ頭数が少ないが、第一次運動野の電気刺激によって痛み様行動が変化することを確認しているため、さらなる試行を重ね最適な刺激頻度等のパラメータを探る。最適な刺激パラメータで刺激した前後で、脳活動の変化を評価することにより、痛みの知覚と脳活動の因果性解明だけでなく、除痛に関与する脳活動を明らかにしていく。
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