昨年度のフレキシブル基板上へのトンネル磁気抵抗(TMR)素子の直接作製に引き続きアニール条件などを調査したところ、最大で200%程度のTMR比が450℃のアニールで実現できることが分かった。更に、1.6%の引張歪みを1000回印加した後も特性が劣化することのない実用的な素子であることが確認された。また、一部の試料では引張歪みを印加した際に、非常に大きな抵抗変化とそれに伴う高いゲージ率(最大で約1000)が確認された。フレキシブルTMR素子は従来より磁場センサや情報記録デバイスとして応用されてきた、もしくは応用が検討されているが、そういったデバイスがフレキシブル基板上にも作製できることを示し、フレキシブルエレクトロニクス分野とスピントロニクス分野の融合領域の今後の発展に欠かせない成果である。またこのフレキシブルTMR素子が歪みセンサとしても利用可能であることを示したことで、単なる二分野の融合というだけではなくそれによる新たな技術の芽を見出したと言える。 またフレキシブル基板上の磁性薄膜の原子レベルの歪みを放射光を用いることで観察した。上記のようなフレキシブルスピントロニクスデバイスにおいては、基板に加わった歪みがどれだけ磁性層に伝わり、磁性がどれだけ影響を受けるかが重要である。今まであまり用いられてこなかったフレキシブルデバイスにおいてそのような基礎的な調査をした例はなく、非常に価値のある情報である。
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