研究課題/領域番号 |
17J03160
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
Choi Sujin 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 強誘電体 / ジルコニア薄膜 / 準安定なOrthorhombic相 / ドーパント |
研究実績の概要 |
1年目は結晶構造の解明に向けてFe添加ジルコニア薄膜中に準安定Orthorhombic相を形成するための製膜条件を確立することが目標である。そのため、固相反応法を用いてFe2O3粉末の仕込み組成(x)が異なるスパッタリングターゲットを作製し、室温でイオンビームスパッタリング法を用いて(100)YSZ基板上に蒸着した。蒸着した後、窒素雰囲気で急速熱処理を行うことでアモルファス状態の薄膜を結晶化させ、 XRDとTEMおよびSTEMを用いて作製した薄膜の結晶構造評価を行った。 XRD測定の2theta-omega scanによって、(100)YSZ基板上に作製したnon-dopedのジルコニア薄膜はYSZ基板と同じ結晶構造を表わしてしることが確認された。一方、Fe添加ジルコニア薄膜は薄膜から起因したピークが観察され、Fe添加によってジルコニア薄膜の結晶構造が異なることが分かった。しかし、Fe2O3の仕込み組成による薄膜のピークの変化は観察されなかった。また、XRD結果より安定なMonoclinic相と準安定なOrthorhombic相の相同定は困難であったことからSTEMを用いて詳細な相同定を行った。その結果より、Feを添加することによって準安定なOrthorhombic相が存在していることが分かった。さらに、熱処理温度によるFe添加ジルコニア薄膜の結晶構造変化を調査した結果によって、1000℃が最適な熱処理温度であることが分かった。以上より、ジルコニア薄膜中に準安定なOrthorhombic相を安定化する条件を検討し、Feを添加することでジルコニア薄膜中に準安定なOrthorhombic相を形成することに成功した。 これより、1年目の目標を達成したと考えられ、2年目の目標に向けて研究を行うことで準安定なOrthorhombic相から起因する強誘電性や磁性的特性の検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目は、Fe添加ジルコニア薄膜の結晶構造の解明に向けて、Fe添加ジルコニア薄膜中に準安定なOrthorhombic相を形成するために製膜条件を確立することを目標にした。1年目の目標を達成するために、Feの添加量(Fe2O3粉末の仕込み組成)、熱処理温度のような製膜条件を検討した。これより、(100)YSZ基板上にFe添加ジルコニア薄膜を製膜し、XRDとTEMおよびSTEMを用いて作製したFe添加ジルコニア薄膜の結晶構造を評価した。結晶構造の調査によって、Fe2O3の仕込み組成が0.03でありジルコニア薄膜に準安定なOrthorhombic相が存在していることが観察された。また、窒素雰囲気で1000℃、10分の熱処理が準安定なOrthorhombic相を形成することで最適な条件であることが分かった。 これより、1年目の目標であった準安定なOrthorhombic相を形成するための製膜条件を確立することを達成した。さらに、(100)YSZ基板上にFe添加ジルコニア薄膜中に準安定なOrthorhombic相を形成することに成功した。 以上の実験から得られた結果を用いて、日本顕微鏡学会学術講演会と日本セラミックス協会2018年年会で参加し、ポスターを発表した。また、応用物理学会秋季学術講演会では口頭発表で得られた結果を報告した。 このような成果により、申請者の研究はおおむね順調に進展していると考えられる。さらに、1年目の目標を達成したことから2年目の目標であるFe添加ジルコニア薄膜の電気特性を解明することに向けて研究を進行することが出来ると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の目標は、1年目の目標であったFe添加ジルコニア薄膜の作製条件の検討による準安定なOrthorhombic相の形成に成功したことから、Fe添加ジルコニア薄膜の電気特性を解明することを目指す。電気特性を評価するために、固相反応法によりエピタキシャル成長したITO電極(下部電極)を単結晶基板上へ作製する。結晶化温度および結晶化時間を検討し、XRD測定およびTEM観察により、結晶構造と膜質について調査する。さらに、上部電極としてPtを蒸着することで、Fe-ZrO2薄膜を電極で挟んだキャパシタ構造を作製する。強誘電性評価には、強誘電体テスターを用いて、P-Eループを測定する。また、強磁性評価には、SQUIDを用いて、D-Hループを測定する。以上の研究計画を遂行することで、申請者はTEMの操作が上達し、多様な材料の結晶構造評価が可能となると考えられる。 1.下部電極作製: 強誘電性を評価するために、キャパシタ構造を作製する必要がある。下部電極はYSZ単結晶基板上にエピタキシャル成長可能なITOを用いる。ITO電極は、室温で膜厚50 nmに堆積した後、熱処理温度900-1000oC、時間1-10分で作製条件を検討する。作製条件検討のために基板の購入が必須である。ITO電極は結晶構造を評価するために、XRDとSTEM観察が必須である。また、共同機器の収差補正STEMの使用のために、機器利用費が必須である。 2.強誘電性および強磁性評価: 強誘電性評価は、強誘電体テスターを用いてP-Eループを測定し、結晶構造と強誘電性の関係を明らかにする。強磁性評価は、SQUIDを用いてD-Hループを測定し、強磁性の起源を明らかにする。そこで、共同機器のSQUID使用のため、機器利用費が必須である。その成果発表のために学会参加旅費と論文投稿費が必須である。
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