研究課題/領域番号 |
17J03172
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
越智 秀明 東京大学, 法学政治学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ヴォルテール / 普遍史 / 共和国 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度に引き続き懐疑主義の問題を検討することから始めた。ヴォルテールが寛容論を論じる際に用いた歴史の検討(とりわけローマやギリシアといった古代の歴史)における懐疑の作用と、18世紀のいわゆる歴史懐疑主義との関係を検討する方がよいのではないかと考え、試みにギリシアとローマの宗教に対してヴォルテールが如何なる態度を示したかを研究した。 この延長上で、彼の歴史叙述についてその方法論と内容を検討するにつれて、ヴォルテールが普遍史(世界史)を描く中でそれぞれの国家・国民に対して明確に異なる態度を示していることに気がついた。ヴォルテールは歴史を描く上でジャック=ベニーニュ・ボシュエの『普遍史』との連続性と断絶との双方を意識しており、その視角から歴史叙述の検討へと進んだ。これは、彼の寛容論を特徴付ける「普遍性」が、しかし他方で各国の「特殊性」という現実と、如何にして両立しているのかしていないのか、ということを検討することに他ならない。とりわけ18世紀の生物学の発展による人種的差異に基づく民族の区別や、気候風土に基づく人間の性向の差異といった議論と結びつくなど、様々な同時代の問題と結びついていることを研究した。 こうして宗教的寛容、歴史叙述、普遍/特殊といった問題を検討するなかで、これが政治体制の問題と如何に結びつくのか、とりわけ「共和国」との関係を考えた。そこで、ポーランド・リトアニア共和国に対するヴォルテールの思想へと研究を進めた。ポーランドは18世紀ヨーロッパ研究において見逃されがちだが、当時のヨーロッパにおける大国の一つであって、言論空間を同じくしていた。ヴォルテールはかの国の宗教的寛容を高く評価していた一方で、歴史叙述においてはその弱体と後進性を問題視し、特殊の相で捉えている。この研究に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時には、本年度までに懐疑主義と宗教の問題を扱い、次年度には文芸共和国の位置付けの検討を行う予定であったが、上記研究概要で示した通り、もともとの予定にはなかったポーランド共和国をめぐる諸問題の検討が重要であるとわかったため、学問の問題へと進むことはできていない。しかし、寛容論・普遍性・国民意識など、様々なテーマを孕んだ新たな研究領域の発見に到ることができたため、予定とは異なるものの、順調に新調していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、ヴォルテールによるポーランドに関する書簡を含む著作を精読する。また当時のポーランドの政治状況の正確な把握や当時のフランスにおけるポーランド像を形成した各種旅行記を渉猟する他、ヴォルテールのポーランド像の形成に重要な役割を果たしたと考えられるフリードリヒ大王やエカチェリーナ、ポーランド王スタニスワフ・レシチニスキ、ポニャトフスキらの著作の検討を行う。さらに、ジャン=ジャック・ルソーやアベ・マブリらのポーランド統治論を検討する。
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