研究課題
分子線エピタキシー法を用いてトポロジカル絶縁体と磁性トポロジカル絶縁体もしくは強磁性絶縁体のヘテロ構造を作製し、磁気輸送現象に関して次の二つを明らかにした。(1)強磁性絶縁体/トポロジカル絶縁体積層構造における巨大異常ホール効果層状強磁性絶縁体Cr2Ge2Te6をトポロジカル絶縁体と接合させることによって、磁気近接効果によるトポロジカル絶縁体表面状態の磁気ギャップ生成を起源とする、巨大異常ホール効果を観測した。ヘテロ構造の断面構造や磁化分布をそれぞれ透過電子顕微鏡や偏極中性子反射法を用いて明らかにし、これまでヘテロ構造作製が報告されていた遷移金属酸化物や希土類硫化物の磁化密度と比較することで、異常ホール効果を最大化するための磁気近接効果の機構を提案した。また、強磁性絶縁体の膜厚依存性から、磁性体の次元性変化に伴う磁気特性変化による磁気近接効果の影響を詳細に示した。本研究によって、磁気近接効果が量子異常ホール効果の発現とその高温化に向けて極めて有望であることを実証した。(2)磁性トポロジカル絶縁体におけるトポロジカル相転移の磁化方向制御量子異常ホール効果を発現する磁性トポロジカル絶縁体Cr-(Bi,Sb)2Te3において、外部磁場によって磁化方向を変化させることで、表面状態混成誘起の自明な絶縁体もしくは金属状態へと変化させることに成功した。また、このプローブが薄膜上下表面状態の混成度合いを定量化する優れた方法であることを示し、表面混成効果が無視できない膜厚は6nm以下と考えられていたが、実は10nm以上必要であることを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
強磁性絶縁体とトポロジカル絶縁体のヘテロ構造研究を順調に進め、量子異常ホール状態で現れる非散逸なカイラルエッジ電流の発現温度高温化に向けて前進している。特に、予備的であるが電流印加により磁化方向制御を可能にし、エッジ状態の新制御法開拓への新しい道筋を開きつつあるのは期待以上の進展である。加えて、量子異常ホール効果研究に関しても研究を進めており、量子性を保ちつつ、表面の一部のみに磁性を付与することができるようになった。順調に成果発表も行っており、本年度は論文2本掲載、1本投稿中である。
研究実績(1)に関連して、強磁性絶縁体/トポロジカル絶縁体接合についての研究を引き続き進め、カイラルエッジ状態の電流制御を可能にする。また、研究実績(2)に関連して、トポロジカル絶縁体表面の半整数量子化ホール伝導度を磁気輸送および磁気光学によって実証し、理論で提唱されていたアクシオン電磁気学との関連を実験的に明らかにする。
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