研究課題
本研究では、ニューロン-ミクログリア相互作用に着眼し、神経障害後の脊髄後角内神経回路変調およびそれに対するミクログリアの役割を回路・シナプスレベルで明らかにすることで、アロディニアのコアメカニズムの解明を目的とする。具体的には、①介在ニューロンを中心としたAβ線維刺激由来の脊髄後角神経回路を特定し、さらに②脊髄ミクログリアの活性化がもたらす回路変調を解明する。分子から細胞、回路、そして個体レベルに至る包括的な研究を行った。①GABA作動性介在ニューロンのサブポピュレーションであるニューロペプチドY(NPY)陽性ニューロンに着目し、アロディニア発症への関与について検討した。NPYプロモーターおよび蛍光タンパク質を搭載したアデノ随伴ウイルスベクターを脊髄後角内に導入し可視化したところ、脊髄後角第II層の抑制性神経に限局していた。NPY陽性ニューロンを選択的に抑制することにより、von Freyフィラメント刺激およびAβ線維刺激に対する一過性の過敏行動が認められた。さらに、NPY陽性神経の除去によっても同様の過敏応答が見られた。本研究結果は、脊髄後角第II層のNPY陽性抑制性神経が正常時において投射神経の活性化を抑制していること、そしてNPY陽性神経の抑制はAβ線維刺激によるアロディニアに関与する可能性を示唆している。②ミクログリアの細胞運動に関与する分子をsiRNAによりノックダウンしたところ、神経障害性疼痛モデルでのvon Freyフィラメント刺激およびAβ線維刺激に対する疼痛関連行動に変化が生じた。以上の結果より、脊髄後角抑制性神経および脊髄後角ミクログリアを切り口としたAβ線維性のアロディニアのメカニズムの一端を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究で明らかにしてきた、神経障害性疼痛モデルにおいて光遺伝学的実験アプローチによるAβ線維選択的な刺激によりアロディニアが誘発されることを国際科学論文として発表することができた。また、当研究室で開発されたアデノ随伴ウイルスによる遺伝子導入技術をラットにも応用し、脊髄後角の抑制性介在神経のサブポピュレーションであるNPY陽性神経を脊髄後角選択的に標識・機能制御することに成功した。この技術を用いて、NPY陽性神経が機械性のアロディニアだけでなくAβ線維性のアロディニアに関与していることを明らかにすることができた。これらの成果は、触覚系Aβ線維に連関した脊髄後角神経回路の異常を明らかにしており、これまでにない神経障害性疼痛メカニズムの解明につながる可能性を示唆している。さらにこれらの成果を基盤とすることで神経障害性疼痛治療薬の開発を飛躍的に進展させ、臨床研究においても大きなインパクトを与えることが期待できる。
NPY陽性神経の電気生理学的な特徴を明らかにする。また、神経障害性疼痛モデルを作製し、NPY陽性神経を活性化した時の行動学的な変化を観察する。さらに、脊髄ミクログリアの活性化がもたらす回路変調を解明するため、siRNAで遺伝子をノックダウンさせた時のNPY陽性神経に対するシナプス剪定の割合を検討する。今後、これらの研究成果を国内学会で発表する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
eNeuro
巻: 5 ページ: -
10.1523/ENEURO.0450-17.2018