本年度は、昨年度末からのフランス滞在を継続し、パリとその郊外において質的調査を中心とする研究活動を行った。そこでは、これまで注目されることが少なかった、職業および学業に関する面で相対的に成功を収めているとみなされるイスラーム教徒を対象とした。 フランスのイスラーム教徒たちについては、一般的に、一枚岩の存在としてスティグマ化されることは多いが、調査対象者たちのライフヒストリーの分析からは、自らを「より周縁化された郊外のムスリム」から差異化するための実践が浮き彫りになった。ここで具体的にテーマとなるのは、例えば恋愛の嗜好の中で表面化する葛藤や、両親の母語を習得することへの忌避感/憧憬といったような、複雑に矛盾する感情である。これらの微細な事象を、イスラモフォビアが蔓延するフランス社会のマクロな文脈、すなわちポストコロニアルな歴史的文脈と結びつけて分析することで、重層的に決定されるフランスのムスリムたちの社会的な配置とその多様性が明らかとなった。 本年度の研究結果から導き出されたこうした知見は、マイノリティとしてのムスリムを主題とする社会科学的な研究において広くみられるような、(ムスリムとそうでない者の)差異を前提とするアプローチから距離を取る必要性をあらためて示唆するものである。今後執筆する博士論文では、このような「方法論的オリエンタリズム」を超克し、文化的(宗教的)な他者化の過程としてのイスラモフォビアに対抗するための社会学的な理論枠組みについて議論する。
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