本研究は、構造モデルと呼ばれる特有のモデルを用いた統計解析について、適応的解析という統計手法のフレームを開発した。近年、データの観測技術や保存技術の進歩により、従来の統計手法では解析できないデータが数多く収集されるようになった。このようなデータは、基礎学術領域から実社会に至るまで幅広い分野で登場している。しかしその特殊性から、低い精度や過大な計算コストなどの問題が発生し、解析の実用化は阻害されていた。本研究は、解析に用いる構造モデルの複雑性を調整する適応的解析という統計解析のフレームを用いて、解析の困難性を解決する統計手法を開発した。本研究の成果により、データ解析を用いる数多くの分野で、新しい解析手法が実用化されていくことが見込まれる。 (a). テンソルデータの解析手法 多次元配列をテンソルデータと呼び、3D画像やWebの関係性などを表現する。しかし次元の呪いと呼ばれる問題により、テンソルデータは非常に多くの要素数を持つため、その解析には常に計算的・理論的な困難がある。本研究は、テンソルデータを入力とする回帰問題や分解問題において、データの背後にある連続構造や低次元構造を適応的に抽出するアルゴリズムを提案し、精度の向上やそれまで不可能だったデータの欠損補完を可能にした。 (b). 関数データの解析手法 関数データとは連続した関数として扱われるデータを指す。関数データはベクトル表現を用いると連続性の情報が失われるため、その情報を保持したまま解析を行うことが困難である。本研究は、関数データを用いた回帰の問題を考え、滑らかさを適応的に調整する推定量や、その推定量の不確定性を評価できる信頼解析の方法を提案した。
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