研究課題/領域番号 |
17J03257
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
成田 秀樹 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 磁性 / 熱電変換 / 異常ネルンスト効果 / スピントロニクス |
研究実績の概要 |
本年度は、カイラル反強磁性体Mn3Snのバルク単結晶を集束イオンビーム(FIB)により薄片化した微細素子を作製し、異常ネルンスト効果の観測に取り組んだ。 微細素子(Ta/Al2O3/Mn3Sn)では、FIBにより微細化した単結晶Mn3Snの上に絶縁層Al2O3を製膜し、その上にさらにジュール熱を発生させるヒーターとしてTaを製膜した。サイズの異なる素子に対して異常ネルンスト効果の測定を行ったところ、Mn3Snのカゴメ面内方向に磁場を印加した場合には、微小磁化に起因するヒステリシスが観測され、電圧のヒステリシスはヒーターに流す電流の向きに依存せず、電圧が電流の2乗に比例して増加することから、観測した電圧は異常ネルンスト効果によるものだと考えられる。また、実験により得られた異常ネルンスト電圧とTaの抵抗率を用いてシミュレーションで求めた温度勾配の大きさから、微細素子においても室温においてMn3Snバルク単結晶と同等の異常ネルンスト効果が観測可能であることを明らかにした。この結果は、FIBによる試料へのダメージが非常に小さいということも示している。 また、FIBにより微細素子化したMn3Snの横にTaヒーターを配置した異常ネルンスト効果の測定配置では、異常ネルンスト電圧のヒステリシスにステップ構造を持つことが観測された。このステップ構造は素子のサイズに依存しており、サイズの大きい試料ではこの構造はほとんど現れないため、サイズを小さくしたことで磁気ドメインの寄与が現れたと考えられる。また、ステップ構造が現れる試料において温度勾配を増加させたところ、異常ネルンスト電圧の大きさは温度勾配に比例し、ヒステリシスのステップ構造が現れ始める磁場は小さくなることが明らかになった。異常ネルンスト効果と反強磁性磁区の関係を明らかにすることで磁区構造を利用した熱起電力の制御が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
微細素子においても室温においてMn3Snバルク単結晶と同等の異常ネルンスト効果が観測可能であることを明らかにしており、微細素子化したMn3Snの異常ネルンスト効果に関して既に論文(1報)が出版されている。また単結晶バルクを微細化し評価する手法を確立できたことは、薄膜化が難しい単結晶バルクにおいても、磁区構造やスピン流が寄与するナノスケールの現象を探索することが可能であるという事を示している。
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今後の研究の推進方策 |
Mn3Sn微細素子の異常ネルンスト効果に現れるヒステリシスのステップ構造の起源を明らかにするため、磁気カー効果と組み合わせて反強磁性磁区構造が熱輸送特性に与える効果について実証を目指す。一方で、酸化シリコン基板上にスパッタリング法を用いて製膜したMn3Sn薄膜に関して電気・熱電特性の評価を試みており、FIBにより微細化した単結晶Mn3Snの異常ネルンスト効果の評価方法の知見を活かし、薄膜デバイスの最適化と合わせて測定系の改良やシミュレーションと組み合わせた温度勾配の見積もりを行い、スピン流やサーモパイル構造と呼ばれる面内方向で連結させた熱電対列を用いることで電圧の増大を目指す。
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