研究課題/領域番号 |
17J03263
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
浅原 亮太 広島大学, 医歯薬保健学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 随意運動 / 中枢コマンド / 循環調節 / 運動筋反射 / 近赤外分光法 / 他動運動 |
研究実績の概要 |
高位中枢から下降する中枢コマンドは、随意運動開始時に活動筋および非活動筋への血流量を増加させる。これまでの研究で、ヒトの随意運動開始に先行して、大脳皮質前頭前野で脳血流上昇が生じることを報告した。この皮質前頭前野の脳血流上昇が中枢コマンドの発現に関わるという仮説を立て、ヒトを用いた研究計画を考案した。
脳活動に伴う脳血流変化の指標として、大脳皮質前頭前野の酸素化ヘモグロビン濃度(Oxy-Hb)を近赤外分光法を用いて計測した。高位中枢から下降する中枢コマンドは、運動強度や活動筋量に比例して循環応答を引き起こす。もし皮質前頭前野が中枢コマンドの発生源であるなら、Oxy-Hbは運動開始時に運動強度や活動筋量に比例して増加すると考えられた。しかし、運動開始に先行する前頭前野のOxy-Hb増加は、運動強度と活動筋量の両者に関連しなかった。また中枢コマンドは、運動中に持続して賦活されると考えられるが、前頭前野のOxy-Hbは、運動開始後に減少した。すなわち、皮質前頭前野は、中枢コマンドの発生に関わると考えられたが、同領域は、中枢コマンドの発生源ではないことが示唆された。
皮質前頭前野のOxy-Hb減少は、随意運動だけでなく、活動肢の機械受容器のみが活性化される他動サイクリング運動時にも生じることを報告した。機械受容器活性は、サイクリングの回転頻度に依存して反射性に呼吸および循環応答を引き起こすことから、皮質前頭前野のOxy-Hb減少も回転頻度に依存するかを調べた。他動運動時のOxy-Hbは、サイクリングの回転頻度に依存して減少した。これより、運動時に生じた皮質前頭前野の脳血流減少は、機械受容器により生じているということが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
随意運動開始に先行して生じる皮質前頭前野の脳血流上昇は、活動筋および非活動筋への血流量を増加させる中枢コマンドに関連するが、同領域は、この中枢コマンドの直接の発生源ではないことを明らかにした。以上の結果は、これまで動物実験で報告されている中枢コマンドの発生源は大脳皮質領域というよりむしろ、脳幹領域にあるという仮説を支持している。皮質前頭前野は脳幹領域や中枢コマンド関連領域の一つである島皮質に神経投射していることから、随意運動開始に生じる前頭前野の脳血流上昇は、これらの中枢コマンド発生源を活性化する役割を反映しているという新たな作業仮説を導いた。
さらに、NIRSを用いて、随意運動のみならず他動運動時のOxy-Hb応答も調べた。運動後に生じる前頭前野の脳血流減少は、サイクリングの回転頻度に依存すること、そしてこの応答が、活動肢の機械受容器によって反射性に引き起こされていることを明らかにした。この結果は、運動中に皮質前頭前野は脳活動を増加することなく、むしろ減少させていることを示しており、この結果も我々の作業仮説を支持している。研究成果は、American Journal of Physiology-Regulatory, Integrative, and Comparative Physiology誌に採択(印刷中)されており、これまでの研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究をさらに進捗させるためには、マルチ技術を用いたアプローチが必要である。特にNIRSは、酸素化ヘモグロビン動態を測定しており、直接脳血流を測定しているわけではない。そのため、NIRSに加えて、超音波ドップラーを用いて脳動脈の血流応答を解析する必要がある。さらに、実験室内で得られた生理情報は、ストレスや緊張といった心理状態に影響を受けている可能性があり、無拘束な状態でのあるがままの随意運動時における大脳皮質活動を調べることが重要である。
ヒトの実験に加えて、動物実験では、皮質前頭前野活動が循環応答を引き起こすかを調べ、同領域と中枢コマンドの関連をさらに明らかにしていきたい。
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