研究課題/領域番号 |
17J03291
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新津 健一郎 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 古代中国 / 古代ベトナム / 石刻史料 / 地域社会 / 地域文化 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度に行った基礎研究を踏まえて研究を展開することを目標とし、前年度に未入手の史料及び先行研究にあたる文献の収集と研究課題の各論にあたる問題の検討を進めた。 文献収集は、基本史料となる文献、史料・研究文献読解のための工具書・史料研究文献、先行研究文献の三種に分け、標準的な校訂本・叢書や国内の新刊書、中文・欧文書籍のうち所属機関を含む日本国内の機関に所蔵がないもの、所蔵機関が限られるものを優先して入手した。 特に大きな成果として、ベトナムでの文献収集がある。漢喃研究院・社会科学院図書館所蔵の金石書・地方誌(碑文や神勅について記載のある1930年代の民俗調査資料を含む)及び研究書・考古発掘報告について、本研究の課題に関連するもの約60件を複写ないし購入した。今後、精査を行う予定である。 個別の論点に関わる議論として、第一に、前年度から引き続いて古代ベトナム(交州)地域史の検討を行った。ベトナム新出の4世紀の石碑について、前年度の研究報告を踏まえ『中国出土資料研究』誌に論文を投稿した。本碑の背景は後漢・三国時代以来の交州史と関わるが、この時代・地域については近年考古調査が進展を見ている一方で歴史考古学的議論は必ずしも十分でなかった。この点について、専修大学「東ユーラシア地域論の現在」シンポジウムにて「後漢・三国政権と交州地域社会」として研究の整理・展望と及び史料の再検討を行った。 第二に、四川地域の事例として後漢末の地方軍閥・劉二牧(劉焉・劉璋)政権の地方支配を検討した。現地社会との接触の仕方について、郡県制と州牧制との関係に着目して史料を分析し、中国中古史青年学者連誼会にて「論劉焉・劉璋政権与益州大姓的関係」として研究報告を行った。 第三に、雲南方面の事例について唐代の爨守忠墓誌を分析することにより、遡及的に検討を行った。これについては論文としての投稿を準備する段階にある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度には、本研究課題に関する史料のうち成都東御街後漢碑、涼山昭覚県後漢石表、ベトナム・バクニン省西晋陶列侯碑を実見した。前二者は発掘・保存に携わった研究者との意見交換も行い、加えて後漢石表の出土地・法量については既存の文献よりも一段と詳細な情報を得ることができた。先行研究を検証するだけでなく、より進んだ新知見を手にすることができたのは大きな進展であった。 また、ベトナムでの史料調査によって上記陶列侯碑の発見地に関わる考古・地誌文献の閲覧および収集、同じくベトナム国内に所在する金石文史料である大隋九真郡宝安道場碑・青梅社鍾銘について実見や拓本閲覧を行った。ともに、本研究課題の対象時期からは外れるが、内容の一部は前代に関する言及や比較を通じて本研究における事例研究の深化に資するものであった。 以上のような史料調査・検討を踏まえ、2件の研究報告を行うとともに、時代・地域を区切った各論について個別の投稿論文として執筆に着手した。ベトナムに加え、中国雲南・四川をそれぞれ対象とするものであり、次年度中の投稿に向けて、計画通り作業を進めている。 このほか、6月に中国・人民大学にてワークショップ "Ancient Historiography in Comparison" に参加した。内容は中国古代の史料編纂・テクスト形成に関わる講義と討論であり、研究の基礎となる史料批判の方法について欧米の研究動向を含めて知見を得ることができた。また、期間中、同世代の研究者との討議を通じて本研究のまとめにむけていくつかの着想を得た。この作業は、当初は最終年度に行う予定であったが、やや前倒して実施することとなった。最終年度中には文章化することが可能と思われる。 上記の通り、本研究課題は概ね計画通り、一部に計画以上の進展が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は9月から研究指導委託及び若手研究者海外挑戦プログラムにより中国・北京大学にて在外研究を行うことを予定している。長期にわたって現地に滞在することで、現地の研究者との緊密なコミュニケーションを図り、より効果の高い調査を行うことが可能になると見込まれる。また、受け入れ先である北京大学歴史系において、中国史だけでなく史学理論・歴史叙述の方法等について現地での研究動向を学びとる計画である。在外研究活動を通じて、史料検討・論文作成及びまとめの各段階について一層の推進を図る。最終年度となることから、なかでも論文投稿による成果の公表とそのまとめには注力して研究を遂行する。
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