研究実績の概要 |
フラ・フィリッポ・リッピのスポレート大聖堂内陣壁画「聖母マリア伝」に関して、図像を中心に多角的な側面から検討し、その再評価を行うことを目的とする本研究の一年目は、《受胎告知》に焦点を絞り、砂時計の描写と関連性が推定される以下の三項目を念頭に調査を進めた。①エローリ枢機卿の周辺、②「節制」を含む美徳の概念と図像、③砂時計が数多く描かれている「書斎の聖ヒエロニムス」を含む一群の書斎主題である。 この研究に関しては、第70回美術史学会全国大会にて、「フィリッポ・リッピ(ca.1406-1469)のスポレート大聖堂壁画に関する一考察--《受胎告知》を中心に--」と題した口頭発表(2017年5月21日)を行い、この発表原稿に秋から冬にかけて行った調査を含め論文とした。この論文は、「フィリッポ・リッピのスポレート大聖堂壁画に関する一考察--《受胎告知》に描かれた砂時計を中心に--」として『美術史』に刊行予定である。さらに同壁画の一部であるスパンドレル部分の天使たちについての論文が、イタリアのキリスト教美術雑誌であるArte Cristianaのfasc.902, set./ott., v. CV, pp. 332-337に、Watanabe, Yumi.“Filippo Lippi’s Spoleto Frescoes: the scrolls held by angels on the triumphal arch spandrels”として掲載された。 ローマのマリア論専門の神学校で10月に行われたシンポジウムに参加することにより神学関係者と知り合う機会が与えられると共に、ローマでの調査を行うことができた。また、フィレンツェ、スポレート、ウンブリア地方を9月から12月にかけて、さらに英国(ロンドン、オックスフォード)での調査を1-2月にかけて行った。
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