研究課題/領域番号 |
17J03416
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
西田 将治 摂南大学, 摂南大学大学院薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 葉酸欠乏 / 海馬歯状回 / 神経成熟 / DNAメチル化 / ヒストンメチル化 / S-アデノシルメチオニン |
研究実績の概要 |
平成30年度は、葉酸欠乏によるメチル基修飾異常が神経成熟抑制を引き起こすメカニズムを追究するために、葉酸欠乏条件下で分化させた培養神経幹細胞および葉酸欠乏マウスを用いて検討を行った。また、葉酸欠乏が視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA系)機能に与える影響を葉酸欠乏マウスを用いて評価した。 まず、培養神経幹細胞を用いて葉酸欠乏が神経成熟関連遺伝子群のmRNA発現に及ぼす影響を解析したところ、神経幹細胞の維持や神経細胞の成熟に関与する遺伝子群の発現減少および神経細胞への分化に関与する遺伝子群の発現増加が観察された。発現変動が顕著であったTbr2とNeuroD1は、葉酸欠乏マウスの歯状回においても同様の発現変動が見られ、メチル基供与体であるS-アデノシルメチオニンの投与により対照群と同等にまで回復した。葉酸欠乏によるメチル基修飾異常と遺伝子発現変動の関連性を見出すため、葉酸欠乏により発現が変動した遺伝子において転写開始点付近のDNAメチル化およびヒストンH3K27トリメチル化をin vitroで解析した。その結果、葉酸欠乏により大部分の遺伝子において転写開始点付近の低メチル化が確認できた。 以上の結果から、転写開始点付近の低メチル化に起因する神経成熟関連遺伝子群の発現変動が葉酸欠乏性の神経成熟抑制を引き起こすものと推察された。 一方、葉酸欠乏がHPA系ネガティブフィードバック機構に与える影響をデキサメタゾン抑制試験により評価した。その結果、対照マウス、葉酸欠乏マウスともに、ネガティブフィードバックが正常に引き起こされていることが確認できた。また、強制水泳ストレス負荷後に血清コルチコステロン濃度を測定することでストレス応答性に与える影響を評価したところ、両マウスともに血清コルチコステロン濃度の有意な増加が見られた。 以上の結果から、葉酸欠乏はHPA系機能に影響を及ぼさないものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度研究計画として、1)葉酸欠乏条件で培養した神経幹細胞における神経成熟関連遺伝子群のmRNA発現量の解析、2)葉酸欠乏条件において発現が変動した遺伝子の転写開始点付近におけるDNAメチル化およびヒストンメチル化状態の解析、3)葉酸欠乏マウスにおけるデキサメタゾン抑制試験、4)ストレス曝露後における葉酸欠乏マウスの血中グルココルチコイド濃度の測定 を挙げていた。項目1)、2)では、細胞の培養条件や解析条件の検討をしていたため、解析がやや遅れており、次年度においても引き続き検討していく予定である。項目3)、4)については研究実施計画通りに実施した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、葉酸欠乏が神経細胞の形態および神経活動に与える影響を明らかにするために、葉酸欠乏マウスの海馬における神経細胞樹状突起の長さおよび樹状突起スパイン数をゴルジ染色法により解析する。神経活動に関しては、葉酸欠乏マウスに強制水泳ストレスを負荷した2時間後に、海馬におけるc-fos(神経活動マーカー)の陽性細胞数を免疫染色法により解析する。一方、予備的検討から葉酸欠乏マウスの白血球数が増加傾向にあることを見出しており、葉酸欠乏マウスでは軽度な炎症が生じている可能性が考えられる。また、葉酸欠乏によりマクロファージの炎症反応が増強されることや末梢組織の炎症反応がうつ様行動を誘発することが報告されるており、免疫機能の変化が脳・神経系機能に影響を与えるものと考えられる。そこで、葉酸欠乏が免疫系に与える影響及びうつ様行動と免疫系との関連性を明らかにするために、葉酸欠乏マウスの炎症反応について解析する。具体的には、葉酸欠乏マウスの血液および脳内における炎症性サイトカインのmRNA 発現量をreal-time PCR 法により解析する。葉酸欠乏マウスにおいて炎症反応が見られた場合は、うつ様行動に対する抗炎症薬の作用を解析する。定常状態において炎症反応が見られない場合は、細菌由来内毒素であるlipopolysaccharide を葉酸欠乏マウスの腹腔内に投与することで炎症を引き起こし、炎症性サイトカインのmRNA 発現量とうつ様行動を解析する。mRNA 発現量に変化が見られた炎症性サイトカインについては、遺伝子転写開始点付近のDNA やヒストンのメチル化をmethylated-CpG island recovery assayおよびクロマチン免疫沈降法により解析し、炎症におけるエピゲノム変動の関与を追究する。
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