研究実績の概要 |
研究代表者は、低酸素トレーニングが通常酸素環境下でのトレーニングと比較して無酸素性能力を大きく改善させることを明らかにしてきた(Kasai et al. 2015)。さらに、低酸素トレーニングに対する適応を、運動パフォーマンスや骨格筋内のエネルギー基質量(クレアチンリン酸量、グリコーゲン量)の変化から検討してきた(Kasai et al. 2017, 2019)。低酸素環境下におけるトレーニングが無酸素性能力の改善に及ぼす効果とその機序を明らかにし、効率的な低酸素トレーニングプログラムを提案することを目的に研究を実施してきた。 そこで、昨年度は、低酸素環境下でのスプリント運動は通常酸素環境下で同様の運動を実施した場合と比較して、筋グリコーゲン量を大きく減少させることを明らかにした。今年度は、低酸素環境下での高強度運動が筋代謝に及ぼす変化を、通常酸素環境下で同様の運動を実施した条件と比較することを目的に実験を実施した。陸上競技短距離選手10名を対象に、高強度運動を低酸素環境下で実施する条件(酸素濃度:14.5%)または通常酸素環境下で実施する条件(酸素濃度:20.9%)をそれぞれ異なる日に実施した。運動は自転車エルゴメーターを用いた高強度運動(6秒間全力ペダリング×15セット)実施した。運動前後には、筋酸素消費量および血流量を近赤外分光法を用いて測定した。その他に、運動時の発揮パワー、心拍数、動脈血酸素飽和度、血液指標(血中乳酸濃度など)、呼気ガス指標(酸素摂取量、二酸化炭素排出量、換気量、呼吸交換比)および主観的疲労感を測定した。その結果、動脈血酸素飽和度は低酸素条件が通常酸素条件と比較して有意に低値を示した(P < 0.05)。血中乳酸濃度は運動に伴い有意に上昇し(P < 0.05)、低酸素条件が通常酸素条件と比較して有意に高値を示した(P < 0.05)。
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