研究課題/領域番号 |
17J03439
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山下 翔大 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 多細胞化 / ボルボックス系列藻類 / ボディプラン / 進化発生学 |
研究実績の概要 |
本研究課題では多細胞性の進化のモデル生物群であるボルボックス系列を用いて、この系列内のアストレフォメネとボルボックス科という2つの系統で起こった多細胞体の三次元的ボディプランである球状群体の形成や非生殖細胞と生殖細胞の分化など多細胞化に伴う発展的形質の平行進化に着目し、胚発生の分子細胞生物学レベルでの比較解析を行なうことで、多細胞性の進化における発展的形質獲得の普遍的な分子細胞生物学的基盤を探求することを目的としている。本研究員は採用第1年度目において、球状群体から平面状群体への進化における発生の変化を細胞レベルで明らかにするべく、平面状群体を形成するゴニウムの胚発生の細胞レベルの解析を実施した。ゴニウムの胚発生について光学顕微鏡タイムラプス撮影による胚発生の連続観察と間接蛍光抗体法による基底小体の染色観察を行なったところ、ゴニウムの胚発生において、細胞分裂期ではアストレフォメネでみられるような娘原形質体の回転は起こらずにカップ状の細胞層が形成され、細胞分裂後にボルボックス科の反転時にみられるような細胞の葉緑体端の突起形成が起こらずに細胞層が広がり、平面状群体が形成されることを明らかにした。以上より、アストレフォメネにおける細胞分裂期の娘原形質体の回転や、ボルボックス科における細胞分裂後の細胞の葉緑体端の突起形成といった球状群体形成の細胞レベルのメカニズムが、それぞれの系統での球状群体の進化に伴って新規に獲得されたものであることが示唆された。以上の成果について第4回国際ボルボックス会議にて口頭発表、日本植物形態学会第29回大会にてポスター発表を行なった。また、アストレフォメネにおける球状群体形成や細胞分化に関わる分子基盤の探索へ向けて、アストレフォメネの形質転換系の確立に向けた条件検討も実施しており、細胞内に外部から蛍光物質を導入することにも成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では採用第1年度目において、アストレフォメネにおける球状群体形成の分子生物学的基盤を探索、解明し、採用第2年度目以降においてアストレフォメネの新規ゲノムデータを利用した細胞分化の分子基盤の探索を計画していたが、そもそもより祖先的な平面状群体をもつ種であるゴニウムの胚発生について細胞レベルでの解析も不十分であり、進化学的議論を進める上で平面状群体と球状群体との胚発生における相違点が不明瞭であった点と、所属研究室の共同研究で進められていたアストレフォメネの全ゲノムの解読が中止となり、計画していたゲノムレベルの解析が難しくなった点を踏まえ、計画を変更し、採用第1年度目においては平面状群体を形成するゴニウムの胚発生の細胞レベルの解析と、アストレフォメネにおける球状群体形成や細胞分化に関わる分子基盤の探索へ向けた形質転換系の確立を行なうこととした。前者については平面状群体と球状群体との胚発生における細胞レベルの相違点を明らかにすることができ、後者については細胞内に外部から物質を導入することができる条件を見出し、採用第2年度目以降に実際にアストレフォメネの細胞に遺伝子を導入していく足掛かりを得られたため、本研究課題の目的の達成に向けておおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
採用第1年度目におけるゴニウムの胚発生の細胞レベルの解析により平面状群体と球状群体との胚発生における細胞レベルの相違点を明らかにすることができたが、その系統関係について、ゴニウムはアストレフォメネと姉妹群にあり、ゴニウムとアストレフォメネの2属からなるゴニウム科はボルボックス科と姉妹群にあり、ゴニウムが球状群体の系統の内部に位置してるために、ゴニウムの胚発生が球状群体系統との共通祖先の胚発生と同様のものであるかどうかは疑問の余地がある。そのために、群体を形成するボルボックス系列の基部より分岐し、4細胞からなる平面状群体を形成するテトラバエナについて同様の解析を行ない、平面状群体から球状群体への進化における発生の変化をより系統を考慮に入れた観点から議論する。また、採用第1年度目に条件検討を行なったアストレフォメネの形質転換系について、クラミドモナス用の薬剤耐性遺伝子コンストラクトがアストレフォメネでは発現しない可能性が考えられたので、RNA-seq等によってアストレフォメネでのチューブリン遺伝子等の高発現遺伝子の配列を取得し、アストレフォメネ由来の配列を用いたコンストラクトを作成して形質転換を試みていく。
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