森林がメタン収支に果たす役割は、実測に基づく理解が不足している。本研究は、森林生態系スケールのメタン交換量、森林の構成要素におけるメタン交換量、気象、土壌環境の連続観測データの解析によって、メタン交換量の制御要因を明らかにし、森林におけるメタン交換量を予測するモデルを開発することを目的とした。 観測は、滋賀県南部の温帯ヒノキ林とインドネシアの熱帯泥炭湿地林において行った。当該年度には、一連の観測を継続するためのメンテナンス作業を行うとともに、各種データの異常値の除去、欠損値の補間といったデータ整備を行った。温帯ヒノキ林では、渓畔域に生育しているハンノキの樹幹からメタン放出が確認されたため、新たにモデルに組み込むため、メタン放出のメカニズム解明に取り組んだ。樹幹からのメタン放出は、土壌中で生成されたメタンが樹体内の空隙をガス拡散によって輸送されるという説と、土壌水に溶存したメタンが樹液流によって輸送されるという説がある。観測された樹幹メタン放出は、地温や地下水の溶存メタン濃度と強い相関を示し、樹液流速度と弱い相関を示したことから、主に土壌中で生成されたメタンが樹体内の空隙をガス拡散によって輸送されると考えられた。これらの発見は、自動連続観測によってはじめて明らかになったものであり、森林におけるメタン動態を理解する上で重要な情報となると考える。熱帯泥炭湿地林では、乾季と雨季の地下水位の変化が生態系スケールのメタン交換量の季節変動をもたらしていることが明らかになった。2年間にわたる観測データを用いた機械学習法によると、地下水位、摩擦速度、地温によって生態系スケールのメタン交換量の87%の変動が説明されることが明らかになった。今後、整備したデータをもとに、地上観測データを活用した森林におけるメタン収支推定モデルの作成を進める予定である。
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