これまでの研究では、国連海洋法条約上の公海漁業に関する協力義務に関する検討を踏まえ、その具体化とされる1995年の国連公海漁業実施協定、特にその第23条が規定する寄港国措置について調査を行ってきた。本年においては、上記の調査を踏まえ、国際漁業法上の旗国の役割が寄港国との関係でどのように変化してきたのかを今日的な視座に基づき再検討し、国際漁業法における公海漁業規制の法的構造の変化の有様を明らかにした。 従来の研究では、公海上での船舶の活動に対する執行および司法管轄権を旗国が優先的に適用するという旗国管轄権の優先性、ならびに管轄権行使にかかる義務もまた旗国が第一義的に負うという旗国の第一義的義務が今日の国際漁業法上で維持されていることに鑑み、公海漁業規制の伝統的な法的構造は現代でも維持されていると理解されてきた。この従前の理解に対し、申請者は、執行管轄権および司法管轄権に基づき寄港国がとる強制措置の態様に着目して検討を行うことにより、公海漁業規制に構造的変化が生じていることを明らかにした。検討の手法としては、実定法上における旗国と寄港国の権利義務の配分に着目し、1990年代までと2000年代以降の国際法規範の展開をそれぞれ分析することにより、公海漁業規制の構造的変化を提示するという実証的アプローチを採用した。以上の研究成果は、博士論文「現代国際漁業法における公海漁業規制の構造的変化-旗国と寄港国の役割分担の変遷」としてまとめている。
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