本研究の最大の目的は到来方向の情報を用いて暗黒物質を発見することである。暗黒物質探索実験において、方向情報を取得するデバイスとしてガス検出器が広く用いられているが、検出器の重要な課題となっているのが背景事象の削減である。本年度、この課題を解決することのできる陰イオン三次元飛跡検出器の性能評価を重点的に行った。 陰イオン3次元飛跡検出器では、荷電粒子によって生成された複数の陰イオンを利用して背景事象を除去するため、陰イオンの検出効率が検出器の感度に直結する。ガス純度をモニターすることで陰イオンの信号を慎重に評価した結果、SF6ガスを用いた検出器ではガス中に含まれる水分が陰イオンの生成を妨げることで検出効率が悪化させることが示された。これによって、検出器の長期運転に向けたガス純度の一つの指標が得られたことになる。 また、高エネルギー加速機構で開発された液体アルゴンTPC用の読み出し回路を用いて、小型の陰イオン3次元飛跡検出器の開発を行った。この検出器ではアルファ線のO(100um)の飛跡検出と同時に複数の陰イオンの信号の検出に成功している。ガス検出器において、この二つの測定量の同時検出は初めてのことであり、陰イオン3次元飛跡検出器が暗黒物質探索実験に実際に応用可能であることを示す結果となっている。 検出器の性能を最大限に引き出すため、2016年度から読み出し回路の製作を行っている。本年度、ASICチップの設計とテストチップの生産を行い、チップの評価を行なった。ノイズ量・ダイナミックレンジ・信号増幅量はともに要請値を満足している。この結果をもとに2018年度に大量生産を行う予定である。これによって大型の陰イオン3次元飛跡検出器の製作が可能となる。
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