研究課題/領域番号 |
17J03537
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
池田 智法 神戸大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / 低背景事象 / 飛跡検出器 |
研究実績の概要 |
現在暗黒物質探索実験において、唯一DAMA実験が観測を主張しており、DAMA実験とは別手法による追実験が行われることが期待されている。本研究の目的はこの課題に応えるため、方向に感度を持った手法によってDAMA実験が暗黒物質の存在を主張する領域(DAMA領域)を探索することである。 NEWAGE実験は方向に感度を持った手法では世界最高感度を誇っていたが、DAMA領域の感度には到達できていなかった。これは検出器の基盤となっている2次元飛跡検出器μ-PICに大量の不純物が含まれており、そこから発生する背景事象が観測されたからである。我々は不純物の混入量が少ない低背景事象2次元飛跡検出器Low-αμ-PICを開発し、これを用いた暗黒物質探索実験を行った。2018年1月から神岡地下実験施設で観測を開始し、現在もデータ取得中である。そのうち約108日間のデータを解析したところ、シミュレーションで期待されていた通り、μ-PIC検出器から発生する背景事象が低滅していることを確認した。この背景事象削減量は暗黒物質の検出感度に変換すると最高約30倍もの感度改善に値する。現在解析途中ではあるが、暗黒物質の発見には至っていない。そのため、暗黒物質の反応確率に対して制限値を与えたことになるが、この制限値は方向に感度を持った手法による世界で最も強いものとなっている。 背景事象はLow-αμ-PICの導入により激減したものの、未だ優位に観測されている。これを同定するため高感度アルファ線検出器Ultra-loを用いてLow-αμ-PICの表面背景事象測定を行い、さらにGeant4シミュレーションを用いて観測データの再現を試みた。これによって現存する背景事象が、ガス中に含まれるラドンとLow-αμ-PIC表面に付着する不純物であると同定された。あと2倍以上の感度改善で方向に感度を持った手法によるDAMA領域の探索が可能であるが、これらの背景事象を除去することで達成される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Low-αμ-PICは暗黒物質探索専用に新しく開発したものである。そのため、実際に十分な信号増幅率を得ることができるのか、正常に機能するのかは不明であった。しかし、開発する際に入念にシミュレーションを行い、以前から使用してきたμ-PICを開発基盤にすることで計画通り開発をすすめることができた。また、これに使用する読み出し回路も従来のものを流用することで迅速にLow-αμ-PICを神岡地下実験施設にある検出器に導入することができた。2017年12月から検出器の性能評価を行い、2018年1月から長期間安定して動作させることができているため、すでに1年以上の観測データを取得することができている。さらに108日分ものデータをすでに解析済みであり、Low-αμ-PICの背景事象がシミュレーションで期待していた通り削減しており、最高約30倍もの感度更新にも成功している。本研究の目的はDAMA領域における方向感度を持った探索であるが、あと2倍程度の感度向上でDAMA領域に到達することができる。 さらにもう一つの大きな進展は、現存する背景事象を同定できたことである。Low-αμ-PICが低背景事象化されているかはゲルマニウム検出器を用いて確認してきたが、それだけでは不十分であることに気づき、高感度なアルファ線検出器Ultra-loを用いてLow-αμ-pICの表面背景事象の精密測定を行なった。実際、ゲルマニウム検出器では見積もることのできなかった背景事象がUltra-lo検出器によって観測された。ここで得られた値をシミュレーションに組み込むことによって観測データをうまく再現できている。したがって、背景事象の同定はUltra-lo検出器による測定がなければできなかったことであり、これに早期に気づいたことが賢明であった。これらの現存する背景事象の特定によってDAMA領域に到達するための戦略をすでに立てることができており、来年度に迅速に取り組むことができる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は方向に感度を持った手法によるDAMA領域の暗黒物質探索である。そのためにはあと2倍以上の感度向上が必要である。感度を制限している原因についてはすでに特定済みであり、ガス中に含まれるラドンからの放射線とLow-αμ-PICの表面に付着している不純物からの放射線である。これら背景事象の発生点はシミュレーションから検出器のある特定のZの位置であることがわかっている。従来のガス検出器ではZの位置を決定することができなかったが、これまで開発を行ってきた陰イオンガスを用いたガス検出器に変更することにより、これを決定し、背景事象を除去する。そのため30cm角の読み出し面積を持つ陰イオンガス検出器を開発し、神岡地下実験施設に導入、測定を開始する。従来通りの検出効率であれば、約1ヶ月の観測でDAMA領域を観測することができる。小型の陰イオンガス検出器はすでに性能評価を完遂しており、従来と同程度の3次元位置分解能と約1cm程度のZの位置分解能が期待できる。大面積容量を読みだすために新たな回路を開発・生産する必要があるが、2017年度からすでにこれに取り組んでおり、2019年度にICを生産予定である。 陰イオンガス検出器のための回路開発が難航するようであれば、現在神岡地下実験施設で稼働している検出器の最適化を行い、観測を継続する。現状検出器に与える印加電圧が低く信号増幅利得が小さいため、低エネルギー側での検出効率が非常に悪い。信号増幅率を大きくし、検出効率を2倍にすることで感度も2倍になると期待できる。 これらの対策により、方向に感度を持った手法でDAMA領域における暗黒物質探索を行う。暗黒物質由来の信号が観測された場合、暗黒物質の発見を主張し、なければその性質に強い制限を与える。これらの結果をまとめ学会で発表し、論文を投稿する。
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