研究課題/領域番号 |
17J03624
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
崎村 広人 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | スピンホール磁気抵抗効果 / 薄膜成長 / 希土類鉄ガーネット |
研究実績の概要 |
本年度は申請時の初年度計画である「試料作成と白金/希土類鉄ガーネット二層膜系におけるスピンホール磁気抵抗効果(SMR)の測定」を行い、研究報告書で述べた通り信頼性・新規性の高い結果を得た。以下に詳細を述べる。 SMRという界面効果における磁気副格子の寄与を明らかにするため、PLD法と電子線蒸着法により作成した白金/エルビウム鉄ガーネット(ErIG)二層膜系を用いて10から300 Kにおける角度依存磁気抵抗(ADMR)測定を行った。 300 KにおいてはErIGの磁化はFe原子に由来するものが支配的なため典型的なSMRの振る舞いが観測された。磁気補償温度近傍である80 Kでは、外部磁場の強さによってADMR信号の振る舞いが変化した。外部磁場1 Tでは抵抗の角度依存性は観測されなかったが7 Tにおいては300 Kの時と同じ角度依存性を示した。このことから80 Kでは外部磁場1 Tと7 TにおいてErIGの異なる磁気相が生じ、それがSMRに反映されたと解釈できる。また10 KではSMR理論で抵抗の角度依存性が現れないはずの面での回転において抵抗の角度依存性が見られた。同温度での7 T測定結果には単独スピンSMRモデルと磁気異方性だけでは説明できない振る舞いも見られた。これらは低温でのみ現れるErIG特有の磁気相を反映したものと考えられる。ErIG層の厚さや基板物質が変化すると磁気補償温度付近でのADMR信号の振る舞いに変化が見られたことから、基板物質由来のErIG薄膜の格子ひずみや膜厚そのものが磁気補償温度近傍での界面磁化に大きく影響することが示唆される。これらの結果を体系的に説明するためには、SMR測定結果の多様な振る舞いから得られたErIG/Pt界面の情報と今後予定しているspin pumpingの実験から得られるバルク状態の情報と照らし合わせて考えていく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在の研究進捗状況について、今年度はおおむね順調に研究が進展したと評価できる理由3点を以下に述べる。第一に、申請時の研究計画に沿ったプロセスを実行できている点である。エルビウム鉄ガーネット(ErIG)薄膜の作成・評価やスピンホール磁気抵抗効果の測定はそれにかかる時間、そして得られるデータの量共に膨大なものである。しかし私は一つ一つの段階を丁寧にこなし、系統的なデータを得ることに成功した。第二に、当初予定していなかった単結晶ErIGを使用したことである。学会を通じてErIG単結晶を持っているグループがあることを知った私はすぐに共同研究を提案した。単結晶が手に入ったことで多種多様な振る舞いを見せる薄膜サンプルの結果を考えるため今後の大きな指針となる。これは本研究を進めるにあたり非常に重要な要素である。第三に、数多くの共同研究先と上手く連携を取りながら研究を進めることができている点である。本研究は我々のグループだけでは完結できないものであり、提携先との信頼関係がそのまま研究の進捗に影響する。私は研究への真摯な姿勢をもって共同研究者たちと信頼関係を築き、ここまでの成果を積み上げてきた。以上の理由から本研究課題の進捗状況はおおむね順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度作成した白金/希土類鉄ガーネット二層膜系におけるスピンポンピングによる逆スピンホール起電力測定を行う。昨年度実施したSMR測定は金属層から流れ込むスピン流に対する磁性絶縁体中の磁化の応答が変化することで白金層の抵抗率が変化するという界面での効果であるのに対し、スピンポンピングによる逆スピンホール起電力の起源は磁性絶縁体中で励起された磁化ダイナミクス(磁化の歳差運動)である。つまりスピン流源が逆になる。希土類鉄ガーネットがスピン流源として働いた場合に副格子磁化がスピン流生成にどういった寄与を見せるのかを本年度中に明らかにすることが目標である。本実験遂行のためスピンポンピングでの高周波測定に必要なシグナルジェネレータ、スペクトラムアナライザと高周波ケーブルを購入する予定である。シグナルジェネレータは物質中の磁化の歳差運動を誘起させるために必要な高周波磁場の生成に使用し、スペクトラムアナライザで歳差運動の励起によるマイクロ波吸収量を測定する。
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