研究実績の概要 |
磁気副格子を持つ系の一種である反強磁性体は強磁性体にない特性を複数有することから次世代スピントロニクス素子の基盤材料として注目を集めており、その本格的な活用にはスピン減衰長の定量が不可欠である。先行研究における反強磁性体のスピン減衰長は測定方法により2桁程度のばらつきがあり、その正確かつ簡便な測定方法の確立が急務であった[1,2]。 本年度我々はスピン減衰長定量の標準的な方法の一つである強磁性体(FM)/反強磁性絶縁体(AFI)接合を含む系を用いた面直スピンポンピング法に着目し、先行研究で無視されていた2マグノン散乱(TMS) の効果を補正することでAFI本来のスピン減衰長が従来の方法による測定値の約10倍であることを明らかにした。本成果は米国Physical Review Research誌に筆頭著者論文として掲載された。 更に我々は、TMS増幅の原因であるFM/AFI接合面での交換バイアスに起因する特徴的なFM磁区構造をスピン偏極低エネルギー電子顕微鏡(SPLEEM)によりその場観察した。FM膜厚増加に伴う磁区サイズの成長レートを算出したところ、下層のAFIが厚いほど成長レートが小さくなった。これは界面の交換エネルギーの増加に起因する。この磁区構造が非周期摂動として界面のFM磁気モーメントの配列を乱すことでFM/AFI接合においてTMSが増幅される。本結果はFM/AFI接合系におけるAFI膜厚変化に伴うFM中の磁化ダイナミクスの変調の原因が交換バイアスに起因する界面の磁区構造にあることを直接観察したという点で重要である。本研究は物質材料研究機構との共同研究である。 [1] H. Wang, et al., Phys. Rev. B 91, 220410(R) (2015) [2] R. Lebrun, et al., Nature 561, 222-225 (2018)
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