沖縄のサンゴ礁を形成する造礁サンゴの一種であるウスエダミドリイシAcropora tenuisは、初夏の満月に一斉に産卵するという、季節と月相に対応した生物リズムを示す。産卵時期を決定するために、ウスエダミドリイシは外環境から季節と月相の情報を読み取っていると考えられるが、どの環境要因を指標としているのか明らかにされていない。本研究は、ウスエダミドリイシの産卵にみられる季節性と月周性影響する環境要因を特定することを目的とする飼育実験と、産卵に関連する遺伝子の探索を目的とするRNA-seq による網羅的発現解析を行った。飼育実験は、琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設の屋内飼育スペースに暗室を用意し、その中に設置した生海水掛け流し水槽を用いて行った。照明にはLEDライトを用い、完全人工光下での飼育を試みた。Web カメラを用いて水槽内の様子を観察し続けた結果、2018年6月24日に産卵が確認された。このことから、ウスエダミドリイシが人工光下の月光が無い飼育でも産卵できることが明らかになった。また、同日には野外おいても産卵が観察されたことから、生海水中にサンゴの産卵の指標とする何らかの環境要因が存在する可能性が示唆された。網羅的遺伝子発現解析は、産卵前にあたる5月の満月、産卵が観察された6月の満月、産卵翌月の7月の満月に、野外にて採集したウスエダミドリイシを用いて行った。現在、次世代シークエンサーを用いて配列決定を行い、発現解析を行っている。今後、月ごとに発現異なる遺伝子の探索と、その機能について解析していく予定である。
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