本研究課題は,ヒトの発話・歌唱における聴覚フィードバックにおいて気導・骨導音声知覚のそれぞれが担う役割を明らかにすることを目的としている.目的の達成に向け,採用最終年度目では骨導音声に関わる物理的な伝達特性と知覚的性質の両面に着目し,1. 骨導音声に関わる伝達特性の測定とフィルタ構築,2. 気導・骨導音声の知覚的割合に基づいた骨導経路の主要性検証,3. 聴覚フィードバックにおける骨導音声の伝達過程のモデル化と総合考察の3点の検討項目を遂行した.具体的内容と得られた成果は次の通りである.1. 骨導音声伝達に関わる伝達特性として、頭部振動では2kHz未満の低域通過特性を、外耳道内放射では3kHz付近の帯域通過特性を有することが分かった。このことを踏まえ、気導音声を用いて骨導音声を聴感的に模擬するためのフィルタを構築した。2. 前項目で構築したフィルタを用いて模擬骨導音声を作成し、話者が知覚する音声における気導音声と骨導音声の混合比を主観評価により決定した。このとき、蝸牛への直接伝達を仮定した頭部振動の伝達特性を用いると、気導音声と模擬骨導音声の混合比が約1:1となり、従来の生理学的知見を説明できることが分かった。3. 前項目の結果より、骨導音声知覚においては外耳道内放射よりも蝸牛への直接伝達の寄与が大きい可能性が示唆された。以上の検討結果を踏まえ、骨導音声の伝達過程をモデル化した。結論として、骨導音声は聴覚フィードバックとして,主に低域の周波数成分に含まれる情報の伝達に関与する可能性を示唆した. 当該年度を含め,本研究により得られた成果は,ヒトの発話・聴覚メカニズムに関わる知見の深化に不可欠なものである.また,本研究で得られた骨導音声の伝達過程に関する知見から,骨導デバイスを用いた発話・聴覚障碍者支援をはじめとする臨床・工学的応用が期待される.
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