研究課題
本研究の目的は、脊髄後角に存在するアストロサイトの活性化及び産生されるLipocalin-2 (LCN2)が、慢性的な痒みのメカニズムにおいて脊髄後角のかゆみに関わる神経回路をどのように変調させるのかを明らかとすることである。今年度は脊髄後角でかゆみ伝達に重要な神経細胞であるgastrin-releasing peptide receptor(GRPR)陽性神経に着目して、慢性掻痒時の活性化アストロサイトによるかゆみ感覚の増強メカニズムに関して研究を行った。GRPR陽性神経を蛍光標識するGRPR-eGFPマウスを用いて免疫組織染色を実施したところ、GRPR陽性神経は脊髄後角表層(I-II層)に局在し、その多くが興奮性介在神経であった。次に、同マウスを用いてパッチクランプ記録を行い、GRPR陽性神経の膜電位応答特性や形態学的な特徴づけを行った。GRPR陽性神経の8割近くが興奮性神経に特異的な発火特性であるdelayed firingもしくはtransient firngを示し、免疫組織化学的手法による結果と一致した。また形態学的な解析からGRPR陽性神経の6割近くが、樹状突起を背側から腹側へ伸ばし、軸索を背側に伸ばして脊髄後角の投射神経に興奮性のシグナルを伝達するvertical cellに分類された。さらに、同マウスを用い接触性皮膚炎モデルを作製し、GRPR陽性神経のGRPに対する応答性を調べたところ、モデルマウスではコントロールマウスと比較してGRPに対する応答性が著明に増強していた。また、慢性掻痒時に脊髄アストロサイトから産生されるLCN2を脊髄スライスに還流処置すると、GRPR陽性神経に誘起されるグルタミン酸性の興奮性シナプス伝達が増強された。以上の結果から、GRPR陽性神経の生理学的な特徴及び、病態時におけるGRPに対する応答性の変化を明らかとした。
2: おおむね順調に進展している
かゆみ特異的な神経細胞であるGRPR陽性神経を蛍光標識するマウスを用いて、電気生理学的な解析を実施した。GRPR陽性神経の電気生理学的な特性や、形態学的な特徴づけを行った。さらに、このマウスを用いて接触性皮膚炎モデルを作成するとGRPに対する応答性が同神経において増強されることを明らかとした為。
今年度は、GRPR陽性神経の生理学的な特徴づけと病態における変化を明らかとした。今後は、病態で見られた変化に関して、アストロサイト及び産生されるLCN2に着目して検討を行う。具体的には、アデノ随伴ウイルスベクターを用いてアストロサイトの活性化やLCN2の発現を抑制した際のシナプス応答やGRPR陽性神経のGRPに対する応答性について詳細に検討を行う。さらに、LCN2によるかゆみの増強メカニズムについて、GRPR陽性神経はヘテロな集団であることから、それぞれの細胞に関して、reconbinant LCN2に対する応答性を、パッチクランプ法でさらに詳細な解析を続ける。
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