研究実績の概要 |
低線量放射線に慢性被ばくした際のp53変異精巣における精巣卵の誘導について検証するため、京都大学放射線生物研究センターにおいて、合計線量100 mGyの低線量ガンマ線 (線量率; 9.99 microGy /min) を7日間かけてp53変異メダカ成魚に照射した。放射線照射終了7日後の精巣組織中に精巣卵が誘導され、p53変異精巣においては低線量の慢性的な放射線被ばくによっても精原細胞の異常分化が生じることが示唆された。 一方で、放射線照射による精巣卵形成の分子メカニズムは不明のままである。本研究では、高線量ガンマ線 (合計線量5 Gy, 線量率7.5 Gy/min) を単回もしくは分割的に全身被ばくさせ、放射線照射終了後3日のp53変異成魚由来の精巣について、RNAシーケンスによるトランスクリプトーム解析を行った。その結果、分割的な放射線照射3日後のp53変異精巣では単回照射と比較し、卵膜形成関連遺伝子群 (ZP遺伝子) の発現上昇が強く促進されることを確認した。放射線被ばくによって初期の段階から雌性遺伝子が誘導されることが示唆された。また、精原細胞で生じる精巣卵への異常分化の分子機構解明のため、一細胞レベルでの遺伝子発現解析を細胞種別に行うことを試みた。本研究では、非照射のp53変異メダカ精巣を酵素処理によって分散し、パーコール法 (密度勾配遠心法) により精原細胞を多く含む分画を抽出する手法を確立させ、シングルセルRNAシーケンス解析した。精原細胞特異的遺伝子(PCNA, dmc1, dazl)や精母細胞特異的遺伝子(SYCP1, SYCP3)等に着目することで、各分化段階の遺伝子発現を一細胞レベルで評価できることが明らかとなった。今後、放射線照射した精原細胞について解析を行い、精巣卵誘導の詳細を検討したい。
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