研究課題/領域番号 |
17J03692
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
渡部 杏太 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 形状磁気異方性 / 垂直磁化容易 / 磁気トンネル接合 / STT-MRAM / 微細加工 / X nm |
研究実績の概要 |
磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(STT-MRAM)を大容量化・高性能化していくためには、その主要構成要素である「磁気トンネル接合(MTJ)」を微細化し、高集積化する必要がある。MTJが満たすべき主な特性は、①熱擾乱に対して安定に情報を保持するための高い「熱安定性」、②低書き込み電力を実現するための低い「反転閾値電流」、③高速読み出し実現のための高い磁気抵抗比、④半導体集積回路への混載のための熱処理耐性、の4つであるが、微細化を進めるにあたって特に①と②の両立が大きな課題となっていた。 本研究では、これまで着目されてこなかった「形状磁気異方性」を積極的に活用し、直径20 nm未満の世代においても技術的な要件を満たすMTJ素子の作製に取り組んだ。形状磁気異方性とは、磁性体の形状に応じて磁化の向きやすい方向が決まる性質であり、形状磁気異方性を用いることで、磁性体の形状、すなわち直径や膜厚を変えることで垂直磁化を実現し、熱安定性をコントロールできるようになる。膜厚(形状)のみを変えることによって高い熱安定性が実現されるため、材料選択の幅が広がり、例えば上述①と②を両立するうえで、低い反転閾値電流にフォーカスした膜構成を選択することができるようになる。モデル計算に基づいて具体的な素子の設計範囲・膜構成を策定し、実際に微細加工を行った。一般に膜厚が厚いほどに加工の難度は高くなるため、工程ごとに条件評価・最適化を行い、極微細なMTJ素子を酸化シリコン基板上に作製した。素子ごとに詳細な評価を行ったところ、80以上の熱安定性指数と電流による双方向の磁化反転が、直径10 nm以下においても確認された。また、得られた値をモデル計算から予測される値と比較し、良い一致を示していることも分かり、本研究において提案する、形状磁気異方性を用いた高性能・極微細MTJのコンセプトを実証することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
次世代のSTT-MRAM応用を見据えた、高性能極微細磁気トンネル接合の作製・評価に取り組んだ。これまで有効利用されてこなかった形状磁気異方性を積極的に活用し、極限まで微細化されたテクノロジーノードまで通用する一桁ナノメートル径の高性能素子の作製・評価に成功した。コンセプトの提唱、モデル計算に基づいた素子設計範囲の具体化、膜構成・微細加工手法の最適化、作製した素子の系統的・統計的な詳細評価まで全て携わった。本研究で得られた素子はこれまでの報告と比べても群を抜いて小さいサイズであり、世界に先駆けて微細磁気トンネル接合における形状磁気異方性の有用性を実証した本成果は英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。以上より、今年度は期待以上の研究の進展があったと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
マイクロマグネティックシミュレーションにより形状磁気異方性pMTJの磁化反転シミュレーションを行い、動的過程を従来型MTJのそれと比較し、必要に応じてモデリングを試みる。層間結合を用いた、積層型記録層を有するMTJ(従来型)を作製し、層間結合に対する各特性の依存性を評価する。そしてこれらの形状磁気異方性pMTJへの応用を検討する。それぞれ1つの記録層と参照層からなる従来構造とは異なる素子構造のMTJをシミュレーションし、形状磁気異方性pMTJのバリエーションを考える。1年目で確立させた厚膜微細加工技術を発展させ、高い寸法比(膜厚/直径>>1)を実現するための方策を検討する。磁壁移動用のデバイスを設計・作製、ならびにその測定系を構築し、垂直磁壁移動の実証に挑戦する。
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