開発した形状磁気異方性磁気トンネル接合(MTJ)素子に関して、当該アプローチや得られた特性の妥当性を検討するために、実験的な手法とシミュレーションの2つの側面から、その磁化反転機構を調べた。実験的な手法では、MTJ素子に対して印加する磁界の角度に対するスイッチング磁界の依存性を評価した。実験結果は、形状磁気異方性MTJを設計する際に用いた一斉磁化反転モデルでよく説明されることがわかった。(一般に、一斉磁化反転ではない不均一な磁化反転は効率が悪い。)また、シミュレーションでは、磁界印加・電流印加の両方の場合の磁化反転についてマイクロマグネティックシミュレーションを行った。磁性層の膜厚や印加する電流を大きな範囲で変化させたシミュレーションを行ったところ、ある程度(約30nm)以上の膜厚場合に、磁界印加でも電流印加でも不均一なふるまいが見られることがわかった。この膜厚は磁性体の磁壁幅に関連しており、形状磁気異方性MTJを設計する際に留意すべき点の一つであることが明らかとなった。 また、極微細形状磁気異方性MTJの作製プロセスの再現性を確認し、本研究を更に発展させていくための土台をつくった。 加えて、形状磁気異方性MTJの一つの発展形として、静磁気結合を利用したMTJ素子の作製にも着手し、形状磁気異方性MTJと同様の測定から、コンセプトの潜在性を明らかにした。 本研究全体として、1X/Xnmスケールで高い性能を有するMTJ素子を実現するための方策を明らかにすることができたため、スピントロニクス及び電子工学の発展に寄与すると考えられる。
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