研究課題/領域番号 |
17J03696
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
高橋 済 一橋大学, 大学院経済学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
キーワード | 地方財政 / 政策的相互関係 / 少子高齢化 / 量的空間モデル / 空間計量経済学 |
研究実績の概要 |
【研究内容】本研究の目的は、少子高齢化社会の下で地方政府がどの様に財政・経済を運営して行く事が最適であるかを考慮する事である。但し、既存の経済モデルでは、1.都市と地方の人口・経済構造の異質性、2.人口移動の存在、3.地域間の政策の相関関係を同時に考慮する研究は少なく、これらが重要な要素となる政策決定に関する示唆を得ることは難しかった。この為、本研究ではこれらの要素を総合して考慮するモデルの作成を行った。研究は現時点において1. 量的空間モデルを用いた地域異質性・人口移動の研究, 2.空間計量経済学を用いた地方政府間の政策的相互関係の研究の二点で構成される。 【研究意義】 1. 量的空間モデルは、地域ごとの経済変数を用いて地域の集合体としての経済全体の均衡状態を記述するものである。このモデルを用いることにより、我が国における地域ごとの年齢・産業の異質性および人口移動の包括的な分析が可能となる。 2. 地方政府間の政策的相互相関関係を明らかにすることは、地方政府の行動を理解する上で重要であるだけでなく、中央政府の最適な制度設計にも影響する。特に、財政・人口政策における相互関係の考察は差し迫った我が国の少子高齢化対策において非常に有益なものである。 【重要性】 現在、人口減少社会を迎えて政策のあるべき姿が活発に議論されているが、地方と都市の年齢構成の異質性や地方政府の政策、財政政策等の様々なトピックが個別に議論され、全体としての合意は未だに形成されていない。この中で、これらの要素を包括的に議論するフレームワークを提供する事は非常に社会的意義が大きいものと考える。また、この議論は我が国のみでなく少子高齢化に直面している先進国、および東アジアの国々への適用が可能であり、政策上の合意形成に役立つものであると考える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1) 量的空間モデルを用いた地域異質性・人口移動の研究 進捗状況:やや遅れている (遅延の理由及び対応); 新経済地理学と世代重複モデルとの統合に問題が発生した。既存の多地域世代重複モデルでは、資本が移動可能要素で労働力の移動が不可能なものが多かった。また、本研究は地域の比較が目標であるが、既存研究では4地域以上の比較はモデル設定が複雑になりすぎる為に行われてこなかった。この状況下で、8地域(地域別)または47地域(都道府県別)の多地域モデルを作成し、シミュレートするのは難しいと考えた。労働力の移動で複数地域を分析している研究を新経済地理学の分野で調査したところ、その発展形である量的空間モデル(Quantitative spatial model)が対応する事がわかった(Redding and Rossi-Hansberg,2017)。現在この分野の理論及びシミュレーション手法を学習中である。 (2) 空間計量経済学を用いた地方政府間の政策的相互関係の研究 進捗状況:おおむね順調 長期的な財政・人口政策に影響を与え、現時点での社会的注目度の高い保育所供給政策を政策変数として採用し、全国の自治体及び特別区に関して政策的相互関係を分析した。結果、公立保育所・私立保育所の供給において政策的相互関係が存在する事、およびその相互関係が逆であることが判明した。しかしながら、これらの政策的相互関係は地方政府をめぐる複数の状況から発生し、それらの状況の識別には特別な手法が必要であることが知られている。そこで、特に待機児童数が多く、保育政策が問題となっている関東圏・関西圏においてRevelli(2005)が推奨している制度変更による競争形態の識別を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
(1) 量的空間モデルを用いた地域異質性・人口移動の研究 (平成30年度前半) 量的空間モデルの理論及びシミュレーション手法を習得し、我が国の経済変数を用いて実際にシミュレートを行う。先行研究は発展途上国における労働市場統合が主であるため、交通網に加え保育所や医療施設等の公共財を導入する事でより現実的なな分析を行えるようにする。 (平成30年度後半) 後述の(2)で得られた結果を、公共財供給に関する地方政府間の政策的相互関係の形態をモデルに導入することで本研究の目標である”地域間の相関の下での中央政府と地方自治体の中長期的最適財政・人口政策”を明らかにする。政府行動は、モデルに政府部門を導入する事で行う。また、最適な政策の指標としては、効用を用いた評価及び人口等の経済変数を用いた評価の両方を検討している。 (2) 空間計量経済学を用いた地方政府間の政策的相互関係の研究 (平成30年度前半) 前年度に得られた保育所供給政策に関する地方政府間の政策的相互関係がリソースフロー型(Brueckner,2003)であるのか、ヤードスティック型(Revelli,2004)であるのかを明らかにする。手法としては、前述の制度変更を特性の似ている自治体に適用するものを採用する。又、既存の地方財政に関する理論モデルを調査し、適用する事で分析結果の理論的解釈も行う。 (平成30年度後半) (1)においてモデルに導入する公共財に関して、これまでの分析を行い、(i)政策の相互関係が存在するか、(ii)地域をめぐるどの様な経済的状況により関係が生じているかを明らかにする。 特に(ii)の結果により地方政府の政策によって移動する要素が異なり、(1)のモデル設定に影響が生じる為、優先的に行う事を考えている。
|