(地方政府間の保育政策に関する戦略的相互関係に関する研究) 2010年から2017年までのデータを用いて、関東・関西の各自治体における0~5歳人口に対する保育所定員の割合(整備率)に戦略性が存在するかどうかの検証を行った。本研究の独自性としては、(i) 2014年における保育政策の大幅な変更、(ii) 2016年における保育所整備に関する政治論争を利用して、両地域の保育所整備の戦略性に関する検証を行った点にある。結果(1)保育所整備の遅れていた関東での整備率が戦略性の拡大により関西に追いついた事、(2)2016年の政治論争は保育所整備の戦略性に正の影響を与えた事が分かった。 (世代重複モデルへの人口移動の導入に関する研究) 国内経済においては人口移動が地域経済及び地域の持続性に影響を与える事が想定される。本研究では、効用を基準に人口移動が起こるとしている量的空間経済学での議論に世代重複モデルの生涯効用を組み込む事で、この影響の評価を試みている。第一段階として、国勢調査移動人口集計、住民基本台帳人口移動報告の2種類のデータより、人々が生涯効用を評価して人生で1度のみ移住を行う定式化の下で、各都道府県の生涯効用を導出した。第二段階では標準的な仮定の下で、これらの生涯効用が世代重複モデルの先行研究と整合的であるかを構造推計を用いて確認した。結果、第一段階においては大都市のある都道府県にて高い生涯効用が得られる事、第二段階においては既存の世代重複モデルの過程と整合的なパラメータを得る事に成功し、人口移動の定式化の下で世代重複モデルを用いた持続可能性分析への可能性を確認した。 (総論) 研究の結果、各地方政府の行動に戦略性が存在し、人口移動を通じて各地域が有機的に接続されている事が判明した。これらの結果は、人口減少下の日本における社会の持続性の議論に新たな視点を与えるものである。
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