研究課題/領域番号 |
17J03728
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中内 将隆 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 燃料電池 / 面分子干渉 / 触媒層 / 多孔体流れ |
研究実績の概要 |
本研究課題は固体高分子形燃料電池触媒層における酸素輸送現象に関して,ナノスケールからメゾスケールに渡ったマルチスケール解析を行い,触媒層構造と酸素輸送特性の相関を明らかにすることで燃料電池の高効率化を図ることが研究目的である. 本年度はアイオノマー膜表面における酸素散乱現象およびアイオノマー膜で構成された微小流路における酸素拡散性について分子動力学シミュレーションを用いて解析を行い,次のような知見が得られた.酸素分子の散乱現象については,アイオノマー膜の含水率によって変化する表面組成と散乱過程の相関について明らかにし,高分子鎖に衝突した場合に比べ溶媒分子に衝突した酸素分子は表面に吸着しやすく,表面との適応具合も高い傾向がある.一方,高分子鎖に衝突した酸素分子は表面とほとんど適応せず,入射時のエネルギー履歴を残して反射する傾向となった.これらの散乱過程および適応具合について,表面に入射した際の衝突分子種ごとに評価し,表面滞在の割合やエネルギー適応具合について評価を行った. また,散乱・表面拡散現象が触媒層空孔における酸素輸送現象に与える影響を評価するために,アイオノマー膜で構成された微小流路における酸素拡散性について解析を行った.全体の酸素拡散性は含水率が増加するにつれ低下しており,これは表面吸着・拡散する酸素分子の割合が増加したためと考えられる.酸素の拡散性について,気相中の拡散と表面と相互作用中の酸素分子の拡散に分類して解析を行った結果,表面相互作用中の酸素分子の拡散性は含水率によって大きく低下する傾向が明らかとなった. 来年度は最終年度として,これまで得られた知見からアイオノマー膜表面における分子散乱モデルを構築し,実構造の触媒層における酸素輸送現象の解析を行う.これにより,分子散乱ダイナミクスを考慮した輸送機構の解明が達成できると考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はアイオノマー膜表面における酸素分子散乱挙動について,含水率によって変化する膜構造と散乱特性の相関を明らかにすることができ,また触媒層空孔における酸素拡散性への影響を評価することが出来た.特に膜中の水分子表面において酸素分子が吸着しやすく,またエネルギー適応が進む知見はこれまで提案されてきた気体分子反射モデルでは考慮されておらず,アイオノマー膜表面特有の現象をして分子レベルの解析が進められた. また,従来の触媒層空孔における酸素輸送解析ではKnudsen拡散を仮定した解析が進められてきたが,近年では微細多孔体における気体輸送への表面拡散現象の寄与が報告されており,本研究でも分子動力学シミュレーションによってアイオノマー膜表面での表面拡散が触媒層全体の輸送へ寄与することを定量的に評価することが出来た.これまで分子動力学シミュレーションで得られた知見をモデリングすることで,分子散乱ダイナミクスを考慮した多孔体内における気体輸送解析が可能になると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの知見から,アイオノマー膜表面での酸素分子散乱現象および触媒層空孔内における酸素輸送現象に関して,散乱・輸送特性とアイオノマー膜構造特性の相関を明らかにすることが出来た.これらの知見により,酸素分子の表面における散乱・表面拡散現象のモデリングを行うことで,触媒層全体の酸素輸送現象の解明へボトムアップする.触媒層全体の酸素輸送現象解析には実際の触媒層の走査型電子顕微鏡により得られた画像データから多孔体構造を再構築し,内部の酸素輸送現象についてモンテカルロ直接法を用いた解析を行う.モンテカルロ直接法による解析では,気体分子間同士の衝突および壁面への衝突を乱数により決定することで内部の輸送現象を再現する.触媒層のような微細多孔体においては,気体分子間同士の衝突より壁面との衝突が相対的に増加するため.壁面での気体分子反射モデルが重要となる.本研究では従来の現象論に基づいた反射モデルではなく,分子動力学シミュレーションを用いた解析により得られた結果からモデルを構築し,モンテカルロ直接法に実装する.これにより,アイオノマー膜表面での分子散乱ダイナミクスのようなナノスケールの現象から微細多孔体における気体輸送といったメゾスケールの現象まで,スケールを横断した解析が可能となると考えていく. 研究の最終目標として,触媒層構造特性と酸素輸送特性の相関を明らかにし,高酸素輸送特性をもつ触媒層構造を特定することで触媒層理論設計への提言を行う.
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