プロジェクトの最終年度にあたる本年度は、研究課題に関する以下の実証研究を行なった。第一に、本研究課題の核となる「近代水道の普及が腸チフスの抑制を通じて水因性以外の疾患による死亡をも減じた」という仮説について、内生性を考慮した頑健な統計解析を実施することで、その妥当性を示した。この研究結果をまとめた論文は、査読付き国際学術誌に採択された。第二に、副次的課題として進めていた、戦間期の京都市を対象とした小地域単位での人口密度と腸チフス罹患率の関係を分析した論文について、一昨年度からの改訂を経て、国内の査読付き学術誌に掲載された。第三に、戦間期日本の死亡率に関連する副次的課題として取り組んでいた、世帯員の死亡や病気への罹患がもたらす家計への負荷に対して低所得世帯が利用していた対処方法についての分析を進めた。自然実験とパネルデータを用いて得られた統計解析の結果は、国内外の関連する学会で報告してコメントを得た。それらのコメントを反映してまとめた論文は、査読付き国際学術誌に投稿し、審査結果を待っている状態にある。最後に、水因性の病気以外に視野を広げた発展的課題として、大気汚染と健康に関する実証分析を実施した。大規模パネルデータを活用して得られた研究成果をまとめた論文は、査読付き国際学術誌に投稿し、改訂要求を得た。研究計画時点で設定した課題の遂行のみならず、さらに副次的課題にまで取り組むことができており、本研究課題の目的は十分に達成したと判断される。
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