本研究の目的は、スーパーローテーションをはじめとする金星気象の理解に重要な要素のひとつとして、雲頂高度約70kmにて観測される惑星大気波動(Kelvin波とRossby波)の時間発展を観測的に明らかにすることである。近年、スーパーローテーションに見られる時間変動を、大気の太陽光加熱量の変化に着目した研究が盛んになってきた。そこで本年度は、これまでの地上連続観測データの解析手法を、現行の金星探査機「あかつき」が取得した高空間分解能紫外線画像応用し、金星雲頂の紫外アルベド模様の変化を惑星大気波動の時間発展の観点から調べた。
2017年の6-10月に取得されたあかつき連続観測のデータを解析した結果、期間中に~5日周期の風速周期変動が卓越し、約3ヶ月の時間スケールで、Rossby波が成長と減衰があることが初めて明らかとなった。また、Rossby波の成長前には、3.8日周期の輝度変化が赤道域で存在することが観測され、Kelvin波がRossby波に先行して存在していたことが示唆された。そして、全期間中の惑星規模で広がる紫外線アルベド空間分布が波動時間発展に対応して大きく変化する様子を詳細に捉えることに成功した。Kelvin波は、雲頂下層より吸収物質を鉛直上向きに輸送することで赤道域では数千kmスケールの吸収の強く暗い領域を形成し、赤道域を中心にアルベドの低下を引き起こしている可能性がある。一方Rossby波は、惑星規模の赤道対称渦を南北半球に伴い、特に南北方向の物質輸送が、高緯度の高アルベド領域と赤道付近の低アルベド領域をかき混ぜる効果があることを示した。
本研究の結果は、雲頂を伝搬する波動によって形成される典型的な紫外アルベドを理解し、金星雲層の大気熱量を定量化する際に重要な知見をもたらすと考えている。
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