研究課題/領域番号 |
17J03893
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
冨田 沙羅 青山学院大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ガンマ線バースト / 衝撃波 / 磁場 / プラズマ / 不安定性 |
研究実績の概要 |
γ線バースト(GRB)とは、数秒から数100秒の間、γ線が突発的に観測される宇宙で最も明るい爆発現象で、その起源天体は未解明である。GRB本体の放射後、数日から数年間かけて、X線から電波帯域の残光が観測される。残光は、中心天体の爆発から生じた相対論的速度で広がる爆風波(相対論的衝撃波)で加速された電子の放射である。つまり、残光はGRBの解明に必要な情報を与える。しかし、相対論的衝撃波での磁場生成機構や高エネルギー粒子の生成機構、残光放射機構は未だ謎である。 残光の観測結果を説明するには、衝撃波下流の広い放射領域で、星間空間の平均磁場3μG (=0.3 nT)を衝撃波圧縮した値のさらに約100倍程度まで増幅された磁場が必要であるが、理論的に説明出来ていない。これまで、磁場増幅機構の一つにワイベル不安定性が有力視されてきた。ワイベル不安定性とは、プラズマが温度非等方性をもつ際に磁場が生成される過程である。先行研究では、Particle-in-Cell(=PIC)シミュレーションを用いて、ワイベル不安定性による磁場増幅過程が調べられてきた。しかし、一様媒質中を伝播する相対論的衝撃波では、ワイベル不安定性で生成された磁場は、衝撃波面付近ですぐに減衰し、GRB残光の観測を説明できないことがわかってきた。 ただし、現実の星間空間には密度揺らぎが存在する。採用第1年度の研究では、非一様(一次元的)な電子陽電子プラズマ中を伝播する相対論的衝撃波の2次元PICシミュレーションを行った。その結果、下流の密度揺らぎは下流へ伝搬する音波で生成されることがわかった。温度非等方性は、高エネルギー粒子の拡散によって下流広域で生成され、一様な場合よりも高い値で維持された。この温度非等方性により、残光の観測が要求するような衝撃波下流の広い領域で磁場が生成すると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非一様媒質中を伝播する相対論的衝撃波下流では、空間的に非等方な密度構造が形成され、さらに非等方な速度分布が生成される。これより、衝撃波下流の広い領域でワイベル不安定性によって磁場生成が起きるという、新たな磁場増幅モデルを我々は提案した。 採用第1年度では、我々のモデルを検証するために、まず簡単な一次元的に非一様な電子陽電子プラズマ中を、伝播する相対論的衝撃波の2次元PICシミュレーションを行った。その結果、下流の密度揺らぎは下流へ伝搬する音波で生成されることがわかった。温度非等方性は、高エネルギー粒子の拡散によって下流広域で生成され、一様な場合よりも高い値で維持されていた。この温度非等方性によって、残光の観測が要求する衝撃波下流の広い領域で磁場が生成すると期待される結果が得られた。以上の結果について、現在論文執筆中である。 また上記のシミュレーション研究の成果が認められ、天文台のスパコンCray XC50で、より大規模計算が可能になる利用カテゴリに昇格した。
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今後の研究の推進方策 |
現実の衝撃波は、星間空間の磁場によって磁化された電子陽子プラズマ中を伝搬する。そこで今後の研究では、背景磁場を入れた場合、電子陽子プラズマの場合、そして上流を2次元的密度揺らぎ構造にした場合のシミュレーションを行い、磁場増幅過程を調べる。そこで得られた磁場揺らぎのスペクトルの減衰率を使って、シンクロトロン放射に加え、ジッター放射を考慮した残光放射モデルの構築をする。そのモデルと観測を比較することで、上流の密度揺らぎの空間スケールを抜き出し、GRBの起源の解明に迫る。 また、非一様な上流を伝播する相対論的衝撃波で生成される、波や乱流の性質と発展を理解することは、様々な高エネルギー天体現象におけるエネルギー散逸機構の解明に重要である。そこで、非一様媒質中を伝播する相対論的衝撃波の線形解析の結果を踏まえ、磁場揺らぎの非線形発展に伴う、粒子へのエネルギー散逸過程についても調べる。
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