研究課題/領域番号 |
17J03902
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
Jammo Sari 筑波大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 土器新石器時代 / テル・エル・ケルク遺跡 / 西アジア / 葬送儀礼 |
研究実績の概要 |
本年度は1997年から2010年にかけてシリア北西部のテル・エル・ケルク遺跡で発掘された西アジア最古の屋外型共同墓地から出土した約241体の人骨を対象として、同遺跡における埋葬習慣の研究を行いました。14C分析に基づいた年代測定によると、テル・エル・ケルク遺跡の墓地は紀元前6400-6200年頃の土器新石器時代に営まれたことが明らかになっており、西アジアにおける墓地の形成を考察するうえで、重要な資料となっています。埋葬習慣の研究と、出土人骨の同位体比分析の成果とを組み合わせると、墓地内に人間集団ごとに埋葬場所の区分が認められることが強く想定されます。さらにその傾向は墓地が形成された初期から通時的にみられ、墓地の形成にあたり集団ごとのまとまりが意識されていたことを指摘することができます。 2017年10月にテル・エル・ケルク遺跡の「頭骨はずし」についての論文「Ancestors Worship or Personal Identity?Skull Removal Practice in the Pottery Neolithic Cemetery of Tell el-Kerkh, Syria」を米国のBASOR誌に投稿し、リヴァイスの回答を得て、2018年3月に再投稿し、現在返答を待っています。2018年4月には、 西アジア 考古学における最大の国際会議である 「11th ICAANE: International Congress on the Archaeology of the Ancient Near East」に参加し、「Emergence of the cemetery in the Near East: A case study of Tell el-Kerkh, northwestern Syria」というタイトルで発表を行う予定です。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テル・エル・ケルクの新石器時代の墓地についての研究は期待通りに進んでいます。これまで様々な比較研究データを収集して分析し、構想を練り上げて、現在精力的に博士論文の執筆に取り組んでいます。現在までの進捗状況で、レヴァント及びアナトリア地域の土器新石器時代の葬送儀礼の比較研究資料を収集するために、研究代表者は、トルコのハケミウセ遺跡とコシュホユック遺跡の現地調査をハジュテペ大学で実施する計画を立て準備していました。ハケミウセ遺跡は、同大学によって発掘調査が行なわれており、また同大学には、コシュホユックの出土遺物も収蔵されています。しかし不幸にも、トルコの政治情勢の急変によって、トルコへの調査研究を実施することができなくなってしまいました。したがって、コシュホユックとハケミウセの資料につきましては、実物資料ではなく、出版された資料に頼って整理研究を行っている状況です。そこが、当初の研究計画とはやや異なってしまった点ですが、総じておおむね順調に進展していると判断します。
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今後の研究の推進方策 |
シリア北西部の土器新石器時代の葬送儀礼をまとめるため、当該期の最も重要な埋葬資料を出土した北シリアのラッカ県に所在するテル・サビ・アビヤド遺跡との比較研究を実施します。この遺跡の調査を長年にわたって続けて来たオランダのライデン大学を訪れて、同大学のピーター・アッカーマン教授をはじめとする多くの研究者と議論を重ね様々な情報を得ます。申請者は2年前からすでにライデン大学との共同研究を開始していますが、比較研究を行いつつ議論を深めることで、シリア新石器時代において、屋外型の共同墓地が発生する背景に迫ります。また、それと並行して、テル・エル・ケルクの新石器時代墓地の資料の詳細な分析結果の取りまとめを行い、ケルク土器新石器時代の人々が死者をどのように扱い、どのような他界観を持ち、他界観がどのように墓地に反映されているのか、これらもろもろの課題に正面から取り組み、回答を得たいと思います。本研究成果は国内外の学会及び学術雑誌にて発表します。前述したように、最近、テル・エル・ケルクの頭蓋骨除去の葬送儀礼について論文「Ancestors Worship or Personal Identity?...」を執筆し、BASOR誌 に再投稿し、受け入れの応答を待っています。また、博士論文のテーマについて別のジャーナル論文「Emergence of the cemetery in the Near East...」を執筆、完成させ、それを投稿する予定です。 最近トルコの土器新石器時代遺跡の最新の発掘成果についてはいくつかの論文や研究発表がなされています。これらの研究成果にも目配りしながら、基本的には自分ですべて一次資料を扱うことのできるテル・エル・ケルク遺跡の調査成果と分析に基づいて、どのように共同墓地が形成されていったのかという研究テーマで、博士論文執筆を完成させる予定です。
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